研究課題/領域番号 |
17H03973
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
菅 敏幸 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10221904)
|
研究分担者 |
稲井 誠 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (20621626)
江木 正浩 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (80363901)
浅川 倫宏 東海大学, 創造科学技術研究機構, 准教授 (80571257)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ソホラフラバノン H / Rh触媒 / CH挿入反応 / ジヒドロベンゾフラン環 / フラバノン環 / リバースモード / CD / 計算化学 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究のテーマであるRh触媒による分子内CH挿入反応を活用してハイブリッド型ポリフェノールのソホラフラバノン H の全合成を達成した。まず、ジフェニルアセトン誘導体からジフェニルジアゾメタン誘導体を合成した。鍵となるジヒドロベンゾフラン環は、Rh触媒を作用させた分子内CH挿入反応により立体選択的に構築した。さらに、合成したジヒドロベンゾフラン環は再結晶することで光学的に純粋な化合物として得られ、絶対配置を含む構造の確定はX線結晶構造解析により達成した。続いて臭素原子部分にアルデヒドを導入後アルドール反応により、環化前駆体となるカルコン部分を構築した。この後に、リバースモードのClaisen転位反応により位置選択的なプレニル基の導入を行った。その後、オキシマイケル反応によりフラバノン環を構築した。さらに、得られた両異性体混合物を分離と保護基の除去を行い、一方のジアスレオマーからは天然物と一致する化合物を得た。ソホラフラバノン Hの絶対配置の決定は、それぞれの単量体のCDスペクトルとの比較により構造決定を行なっている。本研究では、我々が合成したソホラフラバノン H のフラバノン環の両異性体に関してそれぞれのCDスペクトルを測定したところ、顕著な違いが見られた。さらに、計算化学を活用して天然物のCDを予測したところ、フラバノン環の立体化学が2S体と良い一致を示した。本研究により、合成、CDを測定と計算化学を組み合わせることで、これまで困難であった重要な課題であるハイブリッド型天然物の構造確定に強力な手段となることも見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度のプリンセピンに引き続き、ソホラフラバノンHの全合成を達成することに成功した。また、合成とCD測定を組み合わせることで、通常困難なハイブリッド型天然物の構造確定が可能になることを明らかにした。さらに、鍵反応としてジアリールジヒドロベンゾフラン環構築に用いた不活性なCH結合への挿入反応は、炭―炭素結合形成反応の際に求電子側に脱離基やカルボニル基を一切必要としない魅力的な反応である。そのため、前駆体となる水酸基等からの変換の必要もなく、煩雑な保護や脱保護の段階も軽減する魅力的かつ力量のある環境調和型の合成方法論である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、臨床での好成績の結果、海洋天然物初の抗ガン剤として承認と上市された海洋産アルカロイドのエクチナサイジン743 の合成に注力していく。過去の類似のイソキノリンアルカロイドの合成を参考にしてB環のベンジル位を安定なメチレンとして進める合成ルートにより、中間体の安定供給を行う。5環性の骨格構築後、Nsナイトレンによる挿入反応 により、酸化段階を整えることでルートの大幅な短縮と効率化が可能になる。現在,PharmaMar社では発酵法により大量に得られる類似の cyanosafracin B から半合成によりEt 743の大量供給を行い、ヨンデリスという製品名にて抗悪性腫瘍剤として発売されている。この半合成でもB環のベンジル位の酸化が問題となっているため、本研究で目指すCH挿入反応は意義が大きいと考えている。
|