研究課題/領域番号 |
17H03975
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内山 進 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90335381)
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研究分担者 |
保仙 直毅 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (10456923)
大戸 梅治 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (90451856)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗体 / 免疫複合体 / TNF / 超遠心分析 / 免疫原性 / 沈降速度法 |
研究実績の概要 |
抗原抗体複合体(免疫複合体)のサイズと免疫原性との関係に焦点を絞り、3種類の抗TNF抗体あるいはFc融合蛋白質を用いて研究を進めた。抗体に蛍光ラベルを施し蛍光超遠心分析法を駆使することで、実際の体内での濃度域(nM領域)での抗体濃度および抗原濃度での相互作用解析を実現した。 PBSおよび血清中での解析の結果、アダリムマブは抗原であるTNFと濃度依存的に複合体を形成し、量は少ないものの分子量が数十万を超える大きな免疫複合体を形成していた。インフリキシマブも同様にTNFと濃度依存的に複合体を形成していたが、免疫複合体のサイズとしては、アダリムマブのケースよりも大きいものが観測された。一方、TNF受容体とFcドメインの融合蛋白質であるエタネルセプトはTNFと安定に結合するものの1:1複合体よりも大きなものは観測されなかった。次に複合体のサイズとFc受容体を介したシグナル伝達の関係を調べるため、FcRを細胞表面に発現させた組み替えJurkat細胞(FcR/Jurkat)を用いた細胞アッセイを実施した。FcR/Jurkatは、共同研究者らにより開発されたもので、FcRを介した信号伝達が誘導されるとルシフェラーゼが発現する。 この細胞を使ったアッセイをアダリムマブ、インフリキシマブおよびエタネルセプトについて実施したところ、濃度依存的にルシフェラーゼレベルが上昇し、特にインフリキシマブで最も活性が強く、次にアダリムマブ、一方で、エタネルセプトはほとんど活性を示さなかった。蛍光超遠心分析の結果と照らし合わせて考えると、大きな免疫複合体を形成する傾向を持つ抗体はFcRを介した活性が強く、一方、エタネルセプトのように1:1よりも大きな複合体は形成しない場合、FcRを介した活性は発現しないことが分かった。以上の結果から、FcRを介した信号伝達は複合体のサイズにそのまま依存していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
免疫複合体はサイズが大きくなるとFcRを介して免疫系に信号伝達を促すことが確認され、論文化を行った。 この結果は当初の計画を十分に達成している。 加えて、抗体医薬にストレスがかかった際の凝集体のサイズ分布を定量するための手法として定量的レーザー回折法の開発を進めてきた。すでに共振式質量法による数百ナノメートル領域の分布、およびフローイメージング法によるマイクロメートル領域の分布との対応関係を得ており、レーザー回折法はこれらの手法のいずれよりも30~40%程度多く凝集体量を見積もる手法であることが分かった。 この点は当初計画以上の進捗である。 以上から、当初の計画以上に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
凝集体のサイズや種類が免疫系に与える影響について、凝集体の分布を定量的に評価した上で炎症性サイトカインリリースアッセイおよびFcR/Jurkat細胞による測定を行い解明する。凝集体の作成方法として、加熱および撹拌の2種類を採用し、サイズ分布の経時変化を計測することで、サイズ分布が異なる試料を調製することとする。サイトカインリリースではTNF、IL-6、IL-2を中心にELISA法を用いて定量し、凝集体のタイプとの相関を求める。 最終的には凝集体の状態をあらわす複数のパラメーターと免疫系あたえる影響の相関を数理的に求めることで、当初からの目的である凝集体と免疫原性関連シグナルの数理モデルを提唱する。
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