研究課題/領域番号 |
17H03983
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西野 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (30432438)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多剤耐性 / 細菌 / 感染症 / トランスポーター / 抗菌薬 / 発現制御 / 化学療法 / 薬剤感受性 |
研究実績の概要 |
多剤排出トランスポーターは、細菌において多剤耐性化の原因になることが知られている。これら多剤排出トランスポーターは、多剤耐性化のみならず、細菌病原性に関与していることが分かってきた。そこで、本研究では、細菌多剤耐性化と病原性発現制御におけるトランスポーターの役割を明らかにした上で、トランスポーター阻害剤の効果について検証し、多剤耐性菌感染症克服の新しい治療法確立につながる研究を推進している。さらに、トランスポーター阻害剤を用いた細菌の新たな人工的制御法を開発することにより、多剤耐性と病原性の両方を軽減することのできる新たな治療戦略を確立することを目的としている。 今年度は、トランスポーターが細菌の生育環境中でどのように制御されているのかを調べるための実験を行った。その結果、腸内環境に存在する胆汁酸の構成成分により、トランスポーターが誘導され、この発現誘導がトランスポーターの発現上昇に関わるアクティベーターのRamAに対する抑制性因子RamRに依存していることが分かった。RamRタンパク質を精製して各種胆汁酸構成成分との結合実験を行い、共結晶構造解析に取り組んだ。その結果、いくつかの構成成分とRamRとの共結晶構造を解くことに成功した。 また、大腸菌のAcrBトランスポーターの構造をもとに、解析を行った結果、本トランスポーターに存在する第三の薬剤の流入経路を同定することに成功した。 これら得られた研究成果は、多剤排出トランスポーターの機能を調整して、細菌多剤耐性化を軽減することのできる新たな感染症治療法確立につながると高く期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、多くの細菌において、複数の遺伝子が胆汁酸によって発現状態が変化することが知られていたが、その分子機構については全く分かっていなかった。本研究において、サルモネラに存在するRamRタンパク質が直接、胆汁酸構成成分を認識することを明らかにするだけでなく、共結晶構造まで解明したことは大変重要な発見であり、世界で初めて細菌の胆汁酸認識の分子機構を解明することができた。 また、これまでに知られていなかった、多剤排出トランスポーターの新たな抗菌薬の流入経路を明らかにすることができ、これらの成果は、今後、多剤耐性軽減を目的とした新たな薬の開発につながることが高く期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、トランスポーターの阻害剤探索を行い、得られた候補化合物について、細菌の多剤耐性化や毒性におよぼす影響について調べる。また、多剤排出トランスポーターが、抗菌薬の排出以外にどのような細菌の生理機能調節に関与しているのかを明らかにした上で、細菌が持つ様々な性質の人工的制御法開発に結びつける。 また、現在、排出系膜輸送体に関する国際共同研究を、複数グループと取り組んでおり、新たに得られた排出系阻害剤が、各国において問題となっている病原細菌の多剤耐性化と病原性発現におよぼす効果についても検証する。 トランスポーターは、細菌の多剤耐性化と病原性発現という2つの重要な現象に関係していることから、感染症を克服するための新薬のターゲットとしても期待される。本研究では、細菌の多剤耐性化と病原性発現におけるトランスポーター機能を明らかにすることで、感染時の輸送体機能を理解する上での新たな観点が生まれるものと考えている。また、多剤耐性化と病原性を軽減させることのできる新しい感染症治療法開発に役立つものと期待される。
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