研究実績の概要 |
多剤排出トランスポーターは、細菌において多剤耐性化と病原性に関係していることが知られている。本研究では、細菌多剤耐性化と病原性発現制御におけるトランスポーターの役割を明らかにした上で、トランスポーター阻害剤の効果について検証し、多剤耐性菌感染症克服の新しい治療法確立につながる研究を推進している。 昨年度に引き続き、サルモネラのマウス致死性に関与しているマクロライド特異的ABC型薬剤排出トランスポーターMacABに対する阻害剤のスクリーニングを行った。MacABを発現させた菌株は、非発現株に比べ、マクロライド系抗菌薬に耐性を示すが、マクロライドであるエリスロマイシンに対しての感受性を増加させる化合物のスクリーニングを行った。その結果、OU33858 (5-[(5-chloro-2-hydroxyphenyl) methylene]-3-propyl-2-thioxo-1,3-diazolidin-4-one) が、MacABに対する阻害候補化合物として選択された。本化合物は、エリスロマイシンに加え、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロイコマイシン、ジョサマイシンといったマイクロライド系抗菌薬に対するMacAB発現株の感受性を高める効果があった。これまでの研究から、MacABはサルモネラの酸化ストレス耐性と関係していることが分かっている。野生型サルモネラから調整した上清は、MacABを欠失した菌株のH2O2による成長阻害を救済するが、阻害剤はこの効果を低下させることも分かった。MacAB阻害剤の開発は、抗菌薬と阻害剤の組み合わせ、または阻害剤のみを使用して、薬物耐性と毒性を低減する新しい治療アプローチに貢献する可能性がある。
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