組織における過剰な線維化は、組織を硬くすること等により、各種臓器の機能を大きく低下させる。従って、線維化の制御は、心筋梗塞後の心臓や喫煙による肺線維症、慢性腎不全、さらには脂肪肝等、患者数の多い、実に様々な病気において極めて重要な課題となっている。しかしながら、未だ決定的な線維化制御法は無く、線維化に対する画期的な治療法、治療薬の確立が望まれている。 組織の線維化は、コラーゲン等を産生する筋線維芽細胞という細胞群によって実行される。筋線維芽細胞は、組織が正常な時には存在せず、炎症を契機にして、様々な細胞が分化する事により生じる。 筋線維芽細胞研究のボトルネックの一つとして、厳密な意味での筋線維芽細胞特異的なマーカー分子が未だ同定されていないことであることが挙げられる。すなわち、これまで、筋線維芽細胞特異的マーカー分子として、alpha Smooth Muscle Actin: aSMA)等、いくつかの分子が用いられてきた。しかしながら、実際には、例えば、aSMAは正常時の組織の平滑筋に既に強く発現している等、どの分子も、細胞特異性、線維化病態特異性の観点から、筋線維芽細胞特異的なマーカー分子と呼ぶにはふさわしくなかった。そこで、私たちは、そのようなマーカー分子を探索し、ある受容体が筋線維芽細胞の特異的マーカー蛋白質となりうる可能性を見出した。 そこで本研究では、この受容体の線維化への寄与を検討することを目的とした。本年度は、この受容体のノックアウトマウスを作成し、そのマウスに対して線維化誘導処置を施した所、野生型マウスに比べ、線維化の程度が有意に改善することを見出した。この結果に対応し、線維化によって低下する臓器の機能低下がノックアウトマウスにおいて有意に軽減していることも見出した。
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