研究課題
リーリンは特定の神経細胞から分泌される巨大な分泌タンパク質であり、発生期には神経細胞の層構造の形成に必須である。成体脳では、シナプス形成やシナプス可塑性に関与する。近年、リーリンの機能低下が多くの精神神経疾患の発症や増悪化に関与するという報告が多くなされている。特に統合失調症や気分障害などの精神疾患は現代社会の最大の課題のひとつであり、その経済的損失は国内だけでも数兆円と試算されている。既存薬物が奏功しない患者も多く、脳の作動原理の理解に基づいた新規薬物の開発が切望されている。我々は、リーリンを特異的に分解・不活化するプロテアーゼ「ADAMTS-3」を世界で初めて同定し、その欠損マウスではリーリン機能が亢進していることを見いだした。さらに、ADAMTS-3の類縁分子「ADAMTS-2」も脳に発現し、リーリン不活化に寄与することを見いだした。ADAMTS-2/3は阻害薬はリーリン機能を増強し、精神疾患の新規治療薬になると期待される。しかし、プロテアーゼ欠損マウスを用いた解析では、その効果がリーリン分解阻害を介しているとは証明できないので、リーリンの分解部位に変異を導入し、分解が顕著に低下するノックインマウスを作製した。このマウスでは脳の層構造に大きな変化は認められないが、一部の細胞位置が異常になることを見いだした。さらに、ADAMTS-3欠損マウス、上記ノックインマウス、リーリン欠損マウスの脳に発現する遺伝子を半網羅的に解析し、リーリンの機能の強さに応じて発現が変動する遺伝子を見いだした。
2: おおむね順調に進展している
リーリン分解酵素群の機能や意義についてはほぼ解析を完了し、論文を発表あるいは投稿することができた。また、リーリンの新たな機能を示唆する候補遺伝子を複数得ることができ、従来にない視点の研究が可能になった。
作製した遺伝子改変マウスの脳構造や機能をさらに詳細に解析する。リーリンによって発現が変動する遺伝子について、その機能や影響を解析する。
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Bioindustry
巻: 35 ページ: 11-17
J Neurosci.
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10.1523/JNEUROSCI.3632-16.2017