研究課題/領域番号 |
17H03987
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
萬谷 博 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (20321870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 神経疾患 / 筋疾患 / O-マンノース型糖鎖 |
研究実績の概要 |
O-マンノース(Man)型糖鎖には多様な構造が存在し、構造の特徴によりコアM1、コアM2、コアM3の3タイプに分類される。コアM3の合成不全は中枢神経障害を伴う先天性筋ジストロフィー症の原因となる。我々は、コアM3にリビトールリン酸(RboP)が含まれることを発見し、コアM3の構造と生合成機構を解明してきた。本研究では、O-Man型糖鎖合成に関わる糖転移酵素群の機能を解析することで、多様な構造の存在意義や多様な構造をつくるメカニズムの解明を目指している。O-Man型糖鎖の生合成では、小胞体(ER)においてO-Man転移酵素POMT1-POMT2によりManが転移された後に、GlcNAc転移酵素POMGNT2によりGlcNAcβ1-4Manが形成されるとコアM3糖鎖となり、POMGNT2による修飾を受けなかった場合は、ゴルジ移行後に別のGlcNAc転移酵素POMGNT1によりGlcNAcβ1-2Manが形成されコアM1およびコアM2系の糖鎖となる。本年度はPOMGNT2のX線結晶構造を解析し、コアM3糖鎖の修飾部位を決定するメカニズムについて検討した。N末側の細胞質領域と膜貫通領域を除いた可溶型POMGNT2をHEK293細胞で発現、精製し、X線結晶構造解析に用いた。結晶構造からPOMGNT2はN末側の触媒領域とC末側のフィブロネクチンIII(FnIII)様領域からなり2量体を形成していた。基質との共結晶解析から、一方の分子の触媒領域でドナー基質のUDP-GlcNAcとアクセプター基質のマンノシルスレオニン(Man-Thr)とその前後数残基のアミノ酸を認識し、もう一方の分子のFnIII領域はアクセプター基質のC末側アミノ酸と相互作用していた。アクセプター基質の認識には、Man-Thrを含む約12残基のアミノ酸配列が最も重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までのPOMKとFKRPの結晶構造の解明に引き続き、今年度はPOMGNT2の結晶構造の解明に成功し、O-Man型糖鎖合成関連酵素のX線結晶構造解析は順調に進捗している。POMGNT2の基質認識に、Man-Thrを含む約12残基のアミノ酸配列が重要であることなど、コアM3糖鎖修飾部位の決定に関わる新たなメカニズムが明らかとなった。こうした結晶構造解析による基質認識機構の解明は、O-Man型糖鎖がどのような構造の糖鎖あるいはタンパク質の上に合成されるのかを調べる上で重要であり、また、変異による疾患発症のメカニズムを理解する上で重要である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に引き続き以下の計画を進め、最終年度として結果の取りまとめを行う。 (1)O-Man型糖鎖合成関連酵素の構造と機能の解析: X線構造解析により、各酵素の基質認識機構およびドメイン構造と各ドメインの機能を解析する。生化学的手法により構造解析から得られる情報と酵素活性などとの関連を解析し、疾患型変異による機能への影響や病態との関連を検討する。昨年度に引き続き引き続きFKTNとTMEM5の結晶化を進める。 (2)RboP糖鎖およびO-Man型糖鎖修飾タンパク質の探索:これまでに報告されたRboP含有糖鎖は、哺乳類ではα-ジストログリカンに修飾されたO-Man型糖鎖のみであり、他のタンパク質の修飾は不明である。そこで、リビトールリン酸糖鎖の他タンパク質における修飾を調べる。 (3)CDP-Rboトランスポーターの同定: O-Man型糖鎖の合成は小胞体およびゴルジ体内腔で行われるため、細胞質で合成された糖供与体はトランスポーターによりゴルジ内腔へ輸送される。RboPの供与体となるCDP-リビトールのトランスポーターは未だ同定されていないため、CDP-Rboトランスポーターの活性測定法を確立し同定を目指す。 (4)RboPおよびグリセロールリン酸(GroP)糖鎖の生合成経路と糖鎖機能の解析:哺乳類におけるリビトールリン酸およびCDP-Groの生合成経路の解明を目指す。また、コアM3糖鎖におけるGroP修飾の意義について調べる。
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