研究課題/領域番号 |
17H03996
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 祐一 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (90164798)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 構造展開 / 薬理シャペロン / 核内受容体 / タンパク質分解誘導 / 多重薬理 |
研究実績の概要 |
本提案課題は、疾病増悪因子としてのタンパク質を標的に、柱(1)その活性を直接阻害するリガンド、柱(2)その分解/消失を誘導するリガンド、ならびに柱(3)その細胞内局在の異常を修復するリガンド、を軸として、標的多重性ないし(ならびに)機能多重性を持たせたリガンドを創製することを目的に設定している。 本年度は、柱(1)に関わる標的タンパクとして肝臓X受容体(LXR)ならびにパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体(PPAR)などの核内受容体、ブロモドメインタンパク質(BRD4など)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、を主たる対象とし、それぞれに対して特徴的な阻害剤を創製した。標的多重性リガンドとしては、BRD4/HDAC二重阻害剤が今年度の代表例である。また、LXRやPPARについては、従来のトランスアクチべーション作用に関わるリガンドから逸脱して、トランスリプレッション作用に着目した構造展開をも実施し、一定の構造活性相関情報の獲得に至っている。 柱(2)については本年度は特に、神経変性疾患に関わる凝集性タンパク質の分解・消失を狙った。標的タンパク質の分解を惹起するためのユビキチン化の誘導に関しては、ユビキチンリガーゼ活性をもつcIAP-1タンパク質のリガンドとして既に発見してあるメチルベスタチンを活用した。具体的な成果としては、ハンチントン病の原因となる変異ハンチンチンを、細胞内で分解誘導し消失させうる小分子性のタンパク分解誘導剤の創製に成功した。 柱(3)については、ニーマン・ピック病C型を念頭に、その原因となる変異コレステロールトランスポーターNPC1の異常細胞内局在を修正する活性化合物(薬理シャペロン活性化合物)として発見したイトラコナゾールの構造展開を鋭意実施し、ある程度の構造活性相関に関する情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、柱(1)、(2)、および(3)、の各項目それぞれについて、新規リガンドの創製に成功し、一定の構造活性相関を得ることができている。特に、トランスリプレッション活性に着目した核内受容体リガンドの構造活性相関情報の取得、凝集性ハンチンチンタンパク質の分解誘導剤の創製の成功、変異NPC1タンパク質に対する薬理シャペロン活性化合物の取得、は特記しうる成果と考えている。 一方で、得られた新規リガンドの活性向上については、急激な進展はないが、これは当初から織り込み済みである。BRD4/HDAC二重阻害活性化合物に関しては、標的二重性がその活性発現にどのように優位に作用するかの評価を行おうとしている。現時点では、HDAC活性がBRD4阻害活性に比して強いため、二重活性にしたことの優位性を明確に示すことが困難な状況にある。今後、HDAC活性の方を低下させるなどすればこの問題は解決すると考えており、二重活性化合物の創製に成功したこと自体を評価している。
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今後の研究の推進方策 |
柱(1)の標的タンパク質の活性を直接制御するリガンド創製に関しては、本年度に引き続き、核内状態リガンドを中心に構造展開研究を進める。今年度のLXRやPPAR等の代謝性格無い受容体に加えて、古典的なステロイドホルモン受容体を新たに標的タンパク質の対象に加え、柱(2)の標的タンパク質の分解誘導活性を併せ持たせて機能多重性を狙ったリガンド創製を遂行したい。柱(2)については、これ(核内受容体の分解誘導)に加えて、今年度の凝集性タンパク質の分解誘導活性化合物の構造展開を継続し、活性の向上を狙いたい。柱(3)については、変異NPC1の薬理シャペロン活性化合物として、過去に本研究者らが見出していたステロイド性化合物とは全く異なるイトラコナゾールの誘導体が多数創製でき、その構造活性相関情報も集積しつつあるので、NPC1に対する、薬理シャペロン活性に関わる結合ならびにその部位を特定すべく、光親和性リガンドの創製へ、と研究を展開したい。特に研究計画に変更はない。
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