研究課題/領域番号 |
17H04000
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
樋口 恒彦 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (50173159)
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研究分担者 |
梅澤 直樹 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 准教授 (40347422)
久松 洋介 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 講師 (80587270)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 化学発光 / pHプロファイル / 分子内水素結合 / 蛍光 / 熱安定性 / 1,2-ジオキセタン / センサー分子 / フェノール |
研究実績の概要 |
化学発光プローブは、それ自身蛍光プローブより感度が格段に高く、また、励起光が必要のない点、簡便に計測可能な利点を有している。一方で、酵素活性や刺激に応答できるものでは、多くはフェノキシドの生成を引き金にするため、中性条件ではほとんど発光しないことや、水中では発光強度が極端に低下することが課題である。平成29年度には、ジオキセタン型フェノールであるAMPDとフェノール性水酸基のオルト位にアセタミド基を導入した1を合成し、pHプロファイルについて期待通りの結果を得ている。 平成30年度は、実際のクロモフォアとなる3-ヒドロキシ安息香酸メチル(A)の4位に各種のアシルアミド基を導入した化合物を合成し、有機溶媒中及び中性から弱塩基性の各pHにおけるバッファーでのそれらの蛍光スペクトルを測定し、そのプロファイルを比較した。アセトニトリル中では、4位にアセタミド基を導入した化合物(B)が最も蛍光強度が大きかった。また、バッファー中では、蛍光のプロファイルが(A)よりも(B)の方が約pH1だけ、中性側に有利な結果となり、前年度行った化学発光分子の特性とよい相関を示した。 また、平成30年度は、AMPDと1の化学発光におけるpHプロファイルをさらに詳細に実験的に解析した。特に、水溶液中で分子内のNH-O水素結合が予想通り起きているかどうかについては、Bの1H NMRでアセタミド基の隣のベンゼン環水素のシフトから、NH-O水素結合を形成する向きにアミド基が向いていることが示された。さらに、DFT計算による理論的な面でも分子内水素結合が確かに生じていることを支持する結果を得た。これらの結果を合わせて、研究結果をOrganic Lettersにて公表した。 この過程で、化学発光分子1の単位時間当たりの発光量がAMPDより50倍大きく、一方熱安定性は3倍高いという興味深い結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェノール性水酸基に対して分子内水素結合を形成するように設計した分子1のpHプロファイルが、そのような水素結合を形成しないAMPDと比較して約1酸性側にシフトすることを、実際のクロモフォアを合成してそれらの蛍光スペクトルの比較によっても同様の振る舞いが確認できた。1で分子内水素結合が実際に形成されているかどうかについても、NMR実験とDFT計算の両方がそのことを支持する結果が得られたことから、確認できた。 平成30年度は、化学発光能について検討した結果、化合物1の方がAMPDに比較して半減期は60分の1と遙かに短く、それを反映して単位時間当たりの発光量は50倍大きかった。1のフェノール性水酸基のオルト位のアセタミド基は電子供与性ではあるが、供与性はさほど高くないため、上記のような2桁近い違いを供与性だけでは説明しにくい。また一方で、熱安定性の比較では、意外にもむしろ1の方が3倍安定であった。このような半減期・発光率の大きな相違、熱安定性の違いについてはこれまで報告がなく興味深い。半減期が短い方が、イメージングを行う場合に時間分解能が高くなるという利点があることも挙げられる。 また、骨格を7-ヒドロキシクマリンとし、1,2ージオキセタン骨格を結合させた分子の合成にも成功した。pHプロファイルについて検討した結果、クマリン骨格とするだけで中性付近でかなり有利に発光するという結果も得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に明らかになった、トリガーとなるフェノール性水酸基に隣接したアセタミド基が、発光率を格段に高め、半減期を短くする効果、及び熱安定性を向上する効果は、その機構が未知のため興味深く、また、今後の化学発光プローブ開発の設計指針につながるため、機構解明を行うことをまず第1とする。そのため、アセタミド基を、水素結合を行わない他の官能基に変換したものや、電子供与性を低下させたアシルアミド基等を導入した類縁体を各種合成・機能解析することで機構を明らかにしていく。 次に、得られた知見を基により優れた機能の分子を創製し、それを基礎としてフェノール性水酸基に糖やペプチドを結合させ、疾患に関連する酵素によるC-O結合切断を検討し、酵素活性を化学発光で評価することにより、応用を行っていく。 7-ヒドロキシクマリン型化学発光分子についても、その化学発光特性の検討、及び類縁体合成を行い引き続き検討を加えていく。
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