研究課題/領域番号 |
17H04001
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
鈴木 紀行 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (10376379)
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研究分担者 |
小椋 康光 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (40292677)
阿南 弥寿美 昭和薬科大学, 薬学部, 講師 (40403860)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セレニウム / 酸化ストレス / 金属毒性 |
研究実績の概要 |
海棲生物より見出された新規セレン化合物セレノネインは、これまでに報告されているセレンを含有する様々な天然物とは全く異なった構造を有している。そのため、海棲生物の体内でどのような役割を担っているのか、ヒトが摂取した際にどのように代謝・排泄されるのか、毒性学的・栄養学的意義はどうか、など多くの観点から議論の対象となっている。また、生合成経路を含めた生物圏におけるセレンの元素循環の中での位置付けも明らかにされていない。本研究は、このセレノネインを合成し、物理化学的・生化学的・生物学的特性を詳細に解析することで、その存在意義を明らかにすることを目的とする。 平成29年度においては、主にセレノネインの全合成研究を行った。これまでに申請者らが試みてきた全合成ルートは、L-ヒスチジンを出発物質とし、対応するイミダゾロン中間体を合成し、合成段階の最後にセレンを導入するというものであったが、セレン導入の際の官能基共存性が問題となり、従来は目的化合物が得られていなかった。そこで本研究においては、まずヒスチジンの部分構造であるイミダゾール誘導体に対してセレン導入反応を行い、その後にアミノ酸部分を構築するルートを検討した。その結果、目論見通り4位にあらかじめアルデヒド基を導入したイミダゾール-2-セロン誘導体を得ることに成功した。さらに、このアルデヒド基を足がかりとしてアミノ酸部分の導入を試み、複数の合成ルートを検討した結果、このアルデヒド基を、カルボン酸官能基を有するアジリジンへと変換することに成功した。このアジリジンを還元的に開環することにより、目的とするセレノネインを得ることが可能である。また、セレノネインの全合成とは別に、セレノネインの部分構造であるイミダゾール-2-セロンについて、電子的・立体的要因を考慮した様々な誘導体を合成し、その抗酸化ストレス能の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、平成29年度の研究計画においては、年度内にセレノネインの全合成を達成し、平成30年度にはその物理化学的・生化学的・生物的検討など、次の段階に移行する予定であった。そのために従来検討していた合成ルートとは全く異なる新規合成ルートの検討を行った。具体的には、ヒスチジンの部分構造であるイミダゾール誘導体に対してセレン導入反応を行い、その後にアミノ酸部分を構築するルートを検討した。その結果、目論見通り4位にあらかじめアルデヒド基を導入したイミダゾール-2-セロン誘導体を得ることに成功した。さらに、このアルデヒド基を足がかりとしてアミノ酸部分の導入を試み、複数の合成ルートを検討した結果、このアルデヒド基を、カルボン酸官能基を有するアジリジンへと変換することに成功した。しかしながら、合成の最終段階に至る重要中間体は得られてはいるものの、現時点では最終目的物は得られておらず、その点では研究計画を完全に達成したとは言えない。しかしながら、全合成に関する研究と並行して、セレノネインの部分構造であるイミダゾール-2-セロンについて、電子的・立体的要因を考慮した様々な誘導体の合成を達成しており、その抗酸化ストレス能の検討を行うことでセレノネインの生化学的・生物的役割に関する重要な知見を得ることに成功した。 また、本研究は夾雑物を含まない、純粋なセレノネインを有機合成的手法で得ることを前提としており、そこが全体のボトルネックとなっているが、申請者らは最近、遺伝子改変麹菌に対して亜セレン酸を暴露することで、麹菌体内に高濃度のセレノネインが蓄積されることを見出しており、この手法は、セレノネインを単離・精製することで化学合成サンプルと同等の純度を有するサンプルを得られる可能性を有している。このような理由で、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度においては、前年度までに検討を行った合成ルートに基づいて引き続きセレノネインの全合成研究を行う。全合成の鍵となるステップはイミダゾール環にセロン基を導入する反応であるが、現在行っているイミダゾリニウムカチオンから2位に発生させたカルベンと元素状セレンを反応させるというルート以外に、イミダゾール2位に導入したハライドやニトロ基をセレノール基と触媒的に置換するといった合成ルートも併せて検討し、本申請研究の推進に十分な量のセレノネインを確保する。本項目は主に鈴木が担当する。また、平成30年度においてはセレノネインと重金属や活性酸素種との相互作用などの物理化学的な検討や、セレノネインの栄養学的な評価・生理作用の解明など、合成したセレノネインを用いた検討を行う。セレンタンパク質・セレン酵素は哺乳類の重金属毒性、活性酸素種や親電子化合物などに対するストレス応答の中心的な要素の一つであり、セレノネインについても同様の機能を有することが予想されているが、その機能の根拠となる物理化学的データは全く測定されていない。そこで平成30年度には、セレノネインの生理活性の基盤となる基礎的知見を得るために、セレノネインと重金属との相互作用に関する検討、セレノネインと活性酸素種との相互作用に関する検討の2つの実験を行う。本項目は主に鈴木と小椋が担当する。さらに、セレノネインが生体内でいかなる機能を担っているのかという点を明らかにするために代謝・排泄のメカニズムやセレン栄養源としての評価、動物のストレス耐性に対する影響などの検討を行う。具体的には、セレノネインがセレン源として摂取した動物体内で有効に活用されセレノプロテインに取り込まれるのかという栄養学的評価、セレノネインそれ自体が補酵素・補因子などの機能を担っている可能性の評価の2点について検討を行う。本項目は、鈴木、阿南が担当する。
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