研究課題/領域番号 |
17H04002
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西川 喜代孝 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40218128)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インルエンザ / ペプチド / オートファジー / アンフィソーム |
研究実績の概要 |
1)CLEM法によるiLBの性状解析 PVF-tet処理により、IAV感染時に誘導される液胞状オルガネラ、iLBの実体をさらに詳細に明らかにするために、蛍光顕微鏡と走査型電子顕微鏡による同一箇所の観察を可能にするCLEMによる検討をおこなった。本手法を用い、蛍光標識されたiLBそのものの内部構造を電子顕微鏡で詳細に観察することに成功した。その結果、蛍光によって明確に同定できるiLB内には、ラメラ状膜ならびに高電子密度構造体や小胞が多数含まれていること、これらの性状はむしろアンフィソームと一致すること、を見出した。アンフィソームはエンドソームとオートファゴソームの融合により形成され、その後オートリソソームへと成熟する一過性のオルガネラである。 2)iLBの形成機構の解析 そこで、オートファゴソームのマーカーであるLC3の局在解析を行ったところ、iLBにはLC3が局在していることを見出した。さらに、オートファゴソーム形成に必須の分子であるULK1ならびにPIK3C3をそれぞれノックアウトしたMDCK細胞を樹立し、iLBの形成、ならびにPVF-tetの抗IAV活性に及ぼす影響を検討した。その結果、これらのノックアウト細胞ではPVF-tetによるiLBの形成が阻害されていること、さらにこの時PVF-tetによる抗IAV活性も観察されなくなること、を見出した。以上の結果から、PVF-tetによって形成誘導されるiLBの実体はアンフィソームであり、その形成誘導が抗IAV活性の発現に直接関与していること、を見出した。その一方で、iLBの形成はPVF-tetにより特異的に誘導されること、また内部に蓄積されているHAの分解は誘導されないこと、等から誘導性アンフィソームと呼ばれるべき新規オルガネラであるということができる(以後誘導性アンフィソームと呼称)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)CLEM法によるiLBの性状解析 CLEMによる検討により、蛍光標識されたiLBそのものの内部構造を電子顕微鏡で詳細に観察することに成功した。その結果、形態的にiLBがアンフィソームと呼ばれるオルガネラに極めて近い性質を有していることを見出した。本知見は、下記のように、iLBの形成にオートファジーが関与しているという重要な方向性を与えるものであり、今後の研究展開の観点から当初の予想を上回る成果ということができる。 2)iLBの形成機構の解析 PVF-tetによって形成誘導されるiLBの実体は誘導性アンフィソームと呼ばれるべき新規オルガネラであることを見出した。個体でのIAVの直接の標的細胞と言われている肺胞II型細胞内では、アンフィソームが成熟して直接ラメラボディの形成を誘導していること、この過程にはABAトランスポーターの1種である、ABCA3が重要な役割を果たしていること、が明らかとなっている。以上のことから、今後誘導性アンフィソーム形成におけるABCA3の関与、という新たな研究推進軸を提示することができた。本知見についても、当初の予想を上回る成果ということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、PVF-tetが他のA型インフルエンザウイルスに対しても効果を示すか否かを、A/California/04/09 (H1N1pdm)、A/Tokyo/UTHP013/2016 (H1N1pdm)、A/Aichi/2/68(H3N2) (東京大学医科学研究所河岡義裕先生より供与)の3株を用いて検討する。感染実験に際しては、これらウイルス株に対するPVF-tetの阻害効果、構造体形成誘導能の有無についてMDCK細胞を用いて検討を行う。また、これまでにABCトランスポーターの1種ABCA3は肺胞II型細胞におけるラメラボディ形成に必須の役割を果たしていることが知られている。そこで、ABCA3高発現細胞株をMDCK細胞より樹立し、ウイルス感染に対する防御能を検討する。さらに、高病原性H5N1由来HA(H5HA)に対する阻害ペプチドの同定を推進する。PVF-tet 以外にH1HA阻害薬として同定したペプチドについてもH5HA 結合能、SA結合阻害能を検討し、最も優れた阻害ペプチドを同定する。同定した配列をベースとして、多価型ペプチドシートスクリーニング技術を用い、H5HAに最適化した阻害ペプチドを取得する。
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