研究課題/領域番号 |
17H04003
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
花田 賢太郎 国立感染症研究所, 細胞化学部, 部長 (30192701)
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研究分担者 |
齊藤 恭子 国立感染症研究所, 細胞化学部, 主任研究官 (70235034)
桶本 優子 (中村優子) 国立感染症研究所, 細胞化学部, 主任研究官 (30392319)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宿主細胞 / Vero細胞 / フラビウイルス / プリオン / レギュラトリーサイエンス |
研究実績の概要 |
本課題ではゲノム編集技術等を駆使して、ウイルスの増殖性が亢進した改良型培養細胞の構築を目指している。そのためのツールとして作製した黄熱ウイルス(YFV)17D株レプリコンについて、その複製が感染時の複製を再現しているかどうかを検証した。また、ヒト肝がん由来Huh7系列の亜株Huh7.5.1-8について、サル由来Vero細胞と比較解析し、Huh7.5.1-8細胞のさらなるウイルス学的な有用性を見出した。 一方、世界保健機関(WHO)によるポリオ根絶に向けた取り組み(世界ポリオ根絶計画)の最終局面に対応するGlobal Action Plan 3 (GAPIII)の一環として、ポリオウイルス増殖能を欠失させたウイルス分離細胞株やワクチン産生細胞株の樹立が望まれている。そこで、ゲノム編集法によりポリオウイルスへの感受性を欠失させながらも、他のウイルスへの高感受性は維持する細胞株の樹立も推進した。 さらに、異常型プリオンに起因するヒトプリオン病には、さまざまな遺伝子多型のあることが知られているが、これらプリオン多型変異体を内在性プリオンタンパク質の干渉を受けずに解析できるヒト培養細胞実験系は樹立されていなかった。そこで、ゲノム編集法を用いて内在性プリオン遺伝子を破壊したヒト神経芽腫由来細胞変異株を樹立し、さらにヒトプリオン病に関連したプリオン多型変異体を安定発現させ、内在性プリオンの干渉の無い条件下での性状解析に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
YFV17Dレプリコンを利用したゲノムワイドスクリーニングに向けての準備はおおむね計画通りに進行している。レプリコンの複製がYFV(17D株)感染時の複製を反映することを確認するため、インターフェロンによる阻害効果を調べたところ、レプリコンとYFV感染時で同様の阻害効果が認められた。また、ある種の脂質合成阻害薬がレプリコンの複製を阻害することを見出したが、YFV感染についても阻害が認められた。これらの結果はレプリコンがウイルスの複製過程を再現していることを示唆した。 一方、当研究室でC型肝炎ウイルス高産生を指標に樹立されたHuh7.5.1-8細胞は、フラビウイルス属YFVの感染時に、Vero細胞に比べて初期のウイルス産生量が高く、顕著な細胞変性効果を示した。またプラークアッセイでは、Huh7.5.1-8細胞はVero細胞よりもYFVの検出感度が高かった。これらの結果は、フラビウイルス属日本脳炎ウイルス感染時の両細胞の比較結果に類似しており、Huh7.5.1-8細胞は、フラビウイルスの産生・分離・検出に有用であると考えられた。 ポリオ根絶を目的とした病原体管理の基本方針(GAPIII)に対応すべく、広汎なウイルスに対する高感受性を有することが知られるVero細胞を親株として、CRISPR-Cas9によるポリオウイルス受容体完全欠損細胞株を樹立した。想定どおり、樹立細胞株がポリオウイルス非感受性であることが確認され、ポリオ非清浄地域において採取されたサンプルからのウイルス分離作業等への応用が期待される。 また、ゲノム編集法を用いて内在性プリオン遺伝子を破壊したヒト神経芽腫由来細胞変異株を樹立し、内在性プリオンの干渉の無い条件下でヒトプリオン病に関連したプリオン多型変異体に見られる性状の違いを見出した。本系は感染性プリオン研究に役立つ細胞解析系へと応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
・YF17Dレプリコンを用いた同ウイルスの複製に関与する因子のスクリーニングを進める。 ・Huh7.5.1-8細胞に見られたフラビウイルス高産生能の要因について解析を進め、感染増殖性が亢進した改良型細胞構築のための手がかりを得る。 ・Vero細胞ゲノムに見出された内在性サルレトロウイルスのプロウイルスDNAのクローニングを行い、同遺伝子の複製能とウイルス粒子形成能を調べる。 ・ポリオウイルス受容体の欠損によりポリオウイルス非感受性となったことが確認されたVero由来新規細胞株において、種々のウイルスに対する高感受性を維持しているか、検証を行う。
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