研究課題
抗がん剤による末梢神経障害(CIPN)に対する予防/治療薬開発を目指して、シュワン細胞分化誘導能を有する薬物あるいは害事象ビッグデータ解析からスクリーニングを進めている。1)シュワン細胞脱分化/再分化に関する基礎的検討:シュワン細胞にパクリタキセルを処置すると、シュワン細胞脱分化マーカであるガレクチン3発現および遊離量が増加し、同様の現象はパクリタキセルを投与したマウス血中でも確認された。さらに、ガレクチン3-KOマウスでは、パクリタキセルによるCIPNが弱く、また、坐骨神経/DRGへのマクロファージの集積も少なかった。2)シュワン細胞分化誘導能を指標とした一次スクリーニング:当初、MBPプロモーター下に蛍光蛋白質Venusを誘導できるウイルスベクターをシュワン細胞に導入し、その分化誘導を評価できるHTS系を確立しようとしたが、想定していた通りの蛍光強度のS/N比が得られず、シュワン細胞の分化マーカーMBP/未分化マーカーp75の免疫染色により一次スクリーニングを実施することとした。様々な条件検討により最適化することに成功し、京都大学が保有する既承認医薬品/新規化合物ライブラリーを用いて一次スクリーニングを実施し、シュワン細胞分化誘導能を有する複数の候補物質を得た。また、先に同定していたシュワン細胞分化誘導能を有する医薬品について、その効果を再確認し、マウスに投与することにより、想定通りパクリタキセルによるCIPNを有意に抑制することを確認した。3)有害事象ビッグデータ解析によるCIPN予防/治療作用を示す併用薬の探索:FAERSの解析により、白金系抗がん剤(オキサリプラチン等)、タキサン系(パクリタキセル等)およびボルテゾミブに対してCIPNの発生を抑制出来る併用薬を探索し、複数の候補医薬品を選定した。その一部にについて動物実験でもCIPNを抑制することを確認した。
3: やや遅れている
上記のようにHTS系として用いようとしていたMBPプロモーター下に蛍光蛋白質Venusを誘導できるウイルスベクターの想定外のS/N比の低さなどから、研究計画を一部変更せざるを得ず、さらに、本研究を主に担当している研究協力者の不測の怪我による一時入院もあって、研究計画は全体的に遅延したが、繰り越し手続きにより、HTS系の最適化も完了し、研究実績の概要の通りほぼ当初予定通りの成果を挙げることができた。
研究計画の一部に遅延が生じているものの、初年度の研究目標はほぼ達成できている。シュワン細胞分化誘導能を示す既承認医薬品あるいは新規化合物をスクリーニングするためのHTS系については、やむを得ない事情によりやや進行が遅れたが、一部、研究計画を変更して補っており、目処もついたことから現在のところ最終目標に変更はない。また、既にシュワン細胞分化誘導能を示す薬物として見出していた複数の薬物が、期待通りin vivoでCIPN抑制作用を示すことを明らかにしており、予定通り現在そのメカニズムを解析している所である。一方、本研究実施中に、脱分化シュワン細胞で発現が増加する因子についてガレクチン3を見出し、さらに、培地中やマウスでは血中濃度も上昇することが判明したことから、ガレクチン3のCIPN発症機構における役割だけでなく、CIPNのバイオマーカーとしての可能性を検証している。バイオマーカーとしての検証が済めば、実験動物を用いた検討だけでなく、本研究成果をもとに臨床研究として発展できる可能性もある。
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