研究課題
平成29年度助成による研究結果を以下に記す。1.がん組織に発現する亜鉛トランスポーター: 大腸がんにおけるZIP7の発現に加えて、皮膚がんにおけるZIP10の亢進を見出した。 2.創薬研究の評価系開発: ZIP14をモデルとして、亜鉛トランスポーターを制御する化合物同定のアッセイ系を構築している。既に、誘導的にヒトZIP14を発現する細胞株を樹立しており、この細胞株を用いてスクリーニングを始めている。 3.亜鉛トランスポーター結合分子の同定: Yeast two hybrid system (Y2H)によって複数の亜鉛トランスポーター結合分子を単離し、これらが亜鉛トランスポーターの機能にどのような影響を与えるのか検討している。 4.皮膚における亜鉛トランスポーターの役割: ZIP7欠損マウスは、皮膚薄弱化とコラーゲン線維の減少を呈した。間葉系幹細胞のZIP7遺伝子を不活化させたところ、線維芽細胞の分化が阻害された。さらに、ZIP7欠損によって小胞体ストレスの上昇による細胞死が亢進した。これらから、ZIP7は小胞体内の亜鉛量を調節し、小胞体ストレス応答の上昇を制限していることが示された。また、ZIP10が皮膚の毛包に発現することを見出し、上皮系細胞でZIP10が欠損するマウスを作製して解析した。その結果、ZIP10欠損マウスでは表皮の菲薄化と毛包の減少が生じ、皮膚バリア機能の損失が認められた。さらに、ZIP10がp63の転写能の活性化に重要な役割を果たしていることが示された。加えて、ZIP13が脂肪細胞の褐色化にブレーキをかけている調節因子であり、生活習慣病治療の標的分子となる可能性が示された。 5.アトピー性皮膚炎: アトピー性皮膚炎患者の表皮では、ZIP10の発現が顕著に減少していることを見出した。表皮疾患において、ZIP10が創薬標的分子となる可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
がんに焦点を当てて、亜鉛シグナルおよび亜鉛トランスポーターの役割解明と創薬研究を開始したが、がん以外の疾患や組織における意義も含めて、当初の予想以上の発見を得ている。達成度の指標となる項目を以下に示す。1:亜鉛トランスポーターは、様々ながん組織に過剰発現している。 2:亜鉛シグナルはがん細胞の生存や増殖の制御に関与しており、個々の亜鉛トランスポーターが特異的に標的分子を制御している。 3:皮膚組織において、表皮と真皮では異なる亜鉛トランスポーターによる亜鉛シグナルが、それぞれの組織構築に関与している。 4:アトピー性皮膚炎、肥満、骨格筋分化に関わる亜鉛トランスポーターが存在する。 5:亜鉛トランスポーターの中には、亜鉛以外の金属を基質として輸送しているものがある。 6:亜鉛トランスポーターの亜鉛輸送活性をモニターできるアッセイ系を構築した。 7:当該年度までに得た知見をもとに、亜鉛シグナルに関する書籍を編集した。当該書籍は、平成30年度中に発刊される予定である。
平成29年度に得られた知見と進捗状況を踏まえて、今年度の研究方針を以下に示す。1:個々の亜鉛トランスポーターは、皮膚がんや大腸がんをはじめとする種々のがん組織に、どのような役割を担っているのか明らかにする。2:亜鉛トランスポーターの亜鉛輸送活性を制御する化合物をスクリーニングして、候補化合物のがん細胞に対する効果を解析する。3:亜鉛トランスポーターの基質特異性のメカニズムについて解析する。4:皮膚がん、大腸がん、アトピー性皮膚炎における亜鉛トランスポーターの役割と分子機序を解明する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 10件) 備考 (1件)
Nutrients
巻: 10 ページ: 219
10.3390/nu10020219
International Journal of Molecular Sciences
巻: 18 ページ: 2708
10.3390/ijms18122708
Expert Opinion on Orphan Drugs
巻: 5 ページ: 865-873
doi/full/10.1080/21678707.2017.1394184
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 114 ページ: 12243-12248
10.1073/pnas.1710726114
PLoS Genetics
巻: 13 ページ: e1006950
10.1371/journal.pgen.1006950
Journal of Investigative Dermatology
巻: 137 ページ: 1682-1691
10.1016/j.jid.2017.03.031
http://p.bunri-u.ac.jp/lab22/