研究課題
平成30年度助成による研究結果を以下に記す。1.がん細胞に発現する亜鉛トランスポーターの意義 ZIP7とZIP10のがん細胞における意義について、それぞれの遺伝子をヒト肺がん細胞株A549において遺伝子ノックダウンすることによって解析した。その結果、両者ともにA549細胞の増殖とスフェロイド形成に必要であることを見出した。2.がん悪液質における亜鉛トランスポーターの役割 転移性がんを罹患した患者の多くは、骨格筋萎縮を伴うがん悪液質を発症する。申請者は、がん悪液質における骨格筋萎縮の発症において、ZIP14が重要に関与することを見出した。この知見は、ZIP14を介する亜鉛シグナルが骨格筋の形成と維持に対して抑制的に作用することを示しており、がん悪液質治療の創薬標的としてZIP14が有用であることを示唆するものである。3.亜鉛トランスポーターの発現細胞をモニターできる遺伝子改変マウスの作製 申請者は、ZIP10が皮膚の毛包外根鞘に発現すること、上皮性組織特異的Zip10遺伝子欠損(cKO)マウスでは表皮の菲薄化と毛包の減少が生じ、皮膚バリア機能が損失すること、ZIP10がp63の転写能の活性化に重要な役割を果たしていることを示した(Bin et al, PNAS 2017)。一方、様々ながん細胞でZIP10の発現亢進が認められることから(Miyai et al, PNAS 2014)、ZIP10陽性細胞が個体恒常性に深く関わり、ZIP10の発現制御が正常な細胞機能に必要であることが示唆された。そこで申請者は、Zip10遺伝子プロモーターの下流にEGFP-IRES-ERT2Creを挿入したノックインマウス(Zip10-EGFP-KIマウス)を新たに作製した。当該マウスを用いた初歩的な解析では、既に報告したZIP10抗体を用いたFACSや免疫染色の結果と同様に(Miyai et al, PNAS 2014)、pro-B細胞や皮膚毛包外根鞘におけるGFP陽性細胞が確認された。すなわち、ZIP10陽性細胞の役割とZIP10の意義の解明に関する研究において、本マウスの有用性が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、がん細胞に焦点を当てて亜鉛シグナルおよび亜鉛トランスポーターの役割解明と創薬を目的として研究を開始したが、今年度の研究においては、がん悪液質と骨格筋萎縮における亜鉛シグナルの意義に関する新たな知見を見出し、がん関連領域における当初の予想以上の成果を得ている。達成度の指標となる項目を以下に示す。1:ZIP7とZIP10は、両者ともにがん細胞の増殖とスフェロイド形成に必要であることを見出した。2:ZIP14が、がん悪液質における骨格筋萎縮の発症に関与することを見出した。3:がん細胞に高い発現を示し、上皮性組織の形成に重要であるZIP10の発現をGFPでモニターできる遺伝子改変マウス(Zip10-EGFP-KIマウス)を作成した。
平成30年度に得られた知見と進捗状況を踏まえて、今年度の研究方針を以下に示す。1:ZIP7とZIP10が、肺がん細胞の増殖にどのような役割を担っているのか明らかにする。その役割が他のがん細胞においても同様に保存されているのか、複数のがん細胞種を用いて検討する。2:ZIP7とZIP10の亜鉛輸送活性または発現を制御する化合物をスクリーニングして、候補化合物のがん細胞に対する効果を解析する。3:ZIP14の亜鉛輸送活性または発現を制御する化合物をスクリーニングして、骨格筋分化過程に対する候補化合物の効果を解析する。4:Zip10-EGFP-KIマウスを用いて、GFP陽性細胞の特徴と、Zip10遺伝子の発現機序を解析する。
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