研究課題
両親媒性の性質を持つリン脂質は、脂質二重層を形成し、外界から隔離された「細胞」という微小空間を成立させる。脂質二重層を構成するリン脂質は、グリセロ脂質であるジアシルグリセロール(DG)のリン酸化を起点として合成されるが、このDGはエネルギー代謝や情報伝達系とも密接に関与する。我々はこれまで、DGのリン酸化酵素DGキナーゼ(DGK)の遺伝子クローニングと形態学的解析に従事し、DGKファミリーの分子発現局在の多様性を解明してきた。本研究では、各アイソザイムの機能解析を発展させ、DGKという脂質代謝酵素ファミリーから観た生命現象について細胞応答から個体レベルの解析を行うことにより、1)ストレス応答、2)炎症応答、3)生活習慣病、4)高次脳機能の病態解明に向けた研究基盤を確立することを目的とする。本年度は、DGKの遺伝子欠損(KO)マウスを解析する過程においてε型DGK-KOマウスを高脂肪食で40日間給餌すると、野生型に比して白色脂肪の沈着が増加することを見出したので、そのメカニズムを解析した。組織学的解析の結果、DGKε-KOマウスの精巣上体周囲白色脂肪細胞は、野生型の約1.5倍の大きさであった。ウェスタンブロット解析を行った結果、DGKε-KOマウスの白色脂肪細胞では、脂肪分解酵素であるATGL(Adipose TG lipase)およびHSL(Hormone Sensitive Lipase)のタンパク発現が低下していた。これらの酵素はそれぞれ、TGをDGに、DGをMG(モノグリセリド)に分解する酵素であることから、DGKεの欠損は、高脂肪食飼育環境下において脂質分解系全般の機能低下を引き起こすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、DGKファミリーの機能解析について、細胞応答から個体レベルの解析を行うことにより、1)ストレス応答、2)炎症応答、3)生活習慣病、4)高次脳機能の病態解明に向けた研究基盤を確立することを目的とする。本年度は、生活習慣病モデルとして用いられる高脂肪食40日間給餌の実験系を確立しε型DGK-KOマウスの解析を行い、個体レベルにおいて表現型を明らかにした。また、ウエスタンブロットにより、その原因と考えられる分子を同定することができたので、概ね順調に進んでいると思われる。
この後はさらに研究を進め、高脂肪食給餌DGKε-KOマウスにおける脂肪分解酵素の発現低下がどのようなメカニズムで生じるのかを追求したい。また、他のDGKアイソザイムでは、同様の実験系でどのようは表現型を示すのかを検討したいと考えている。
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