研究課題/領域番号 |
17H04014
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 真 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 教授 (10222019)
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研究分担者 |
岡 雄一郎 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 講師 (30614432)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞機能形態学 / 解剖学 / 神経科学 / 脳・神経 |
研究実績の概要 |
学習の細胞基盤の一つはシナプス後部位のスパイン(棘突起)の形態変化並びにシナプス面に局在する受容体数変化である。そして、形態変化としては、主にスパイン頭部の容積変化およびシナプス面の面積変化が報告されてきた。一方、我々はスパイン基部(頚部)の形態が従来の想定よりも細い場合が多く、その変化がシナプス伝達効率に大きく影響する可能性を示唆するデータを得た。すなわち、スパイン基部を樹状突起とスパイン頭部間の受容体分子の通り道ととらえ、その基部が細ければ受容体分子などの移行は大きく阻害され、太ければ容易に移動し、その形態制御が神経情報伝達の効率に重要であるとの仮説に至った。本研究では、この仮説を実証し、従来顧みられなかったスパイン基部(頚部)に焦点をあて、その形態制御の分子基盤を解明し、スパイン基部による神経情報伝達制御という新たな概念を確立することを目的とする。今年度は、以下の実験においてとくに新たな成果が得られた。 実験 スパイン基部形態の観察法の確立 今回、FIB-SEM法を用いて、スパイン頚部の3次元再構築を行い正確な評価法を確立した。その結果、従来スパインの分類において、Stubby型とされていた頚部が頭部と同じ程度の径を持つとされるスパインの多くは、実は異なる方向から観察するとmushroom型(すなわち、頚部の形が非対称であり、異なる方向からは頚部が頭部より細い)であることを観察した。これは、従来考えられていたスパイン分類比率の常識を覆すものであった。同時に、複数の標的細胞を同時観察するため、異なる色で染色する方法(Tetbow)の応用を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験1について。スパインの形態研究において、近年用いられることの多いラピッドゴルジ法では、必ずしもその形態が正確には再現できない。また、電子顕微鏡での観察像からスパインを再構築する方法は、確実ではあるが、同一スパインを時間を追っての観察ができないこと、および手技が煩雑である。一方、通常のGFP発現遺伝子の導入によるスパインの可視化では、例えば培養神経細胞の観察を行う場合、遺伝子導入される細胞が多くなりがちである。そのため、特定の神経細胞のスパイン像を一本の樹状突起にわたって観察することが困難である。ところが、導入遺伝子の濃度を下げると、蛍光強度が落ちがちであり、十分な観察が難しい。そこで、新たに細胞ごとの蛍光強度を落とすことなく、低頻度に細胞を標識できる方法を開発した。具体的にはCreを発現すると、いわゆるpositive feedbackにより自己のCreを増やすことができるベクターを開発し、濃度を薄くして神経細胞に導入したところ、当初の目的が達成された。この方法の大枠は、昨年度ほぼ確立したものであるが、本年度はその条件をさらに検討し低頻度標識をより確実に実現できることとなった。あわせて複数の標的細胞を同時観察するため、異なる色で染色する方法(Tetbow)の応用を進めた。同時に、FIB-SEM法を用いて、スパインの形態を3次元的に精密に計測し観察する方法を確立した。その結果、従来スパインの分類において、Stubby型とされていた頚部が頭部と同じ程度の径を持つとされるスパインの多くは、実は異なる方向から観察するとmushroom型(すなわち、頚部の形が非対称であり、異なる方向からは頚部が頭部より細い)であることを観察した。これは、従来考えられていたスパイン分類比率の常識を覆すものであった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果より、スパインの茎(スパイン基部、頚部)の観察には、電子顕微鏡による連続切片観察が重要であることが判明した。この点を踏まえ、平成31年度(令和元年度)は以下の実験を行う。 実験(1)スパイン基部形態へのミオシンIIの役割の検討 昨年度に引き続き実施する。実験(2)細胞内情報伝達系によるミオシンIIの結合活性の変化の検討。実験(3)スパイン頭部の活性化によるスパイン基部の変化の検討。スパインでの活性化(すなわちシナプス脱分極)により、スパイン基部の形態に変化が生じるか検討する。この観察においても、電子顕微鏡連続切片での結果を鑑み実施する。脱分極によりRho familyの一部の分子が活性化され、スパイン頭部の肥大化をもたらすことが既に報告されている。LTPの際の神経情報伝達の効率的上昇のためには、シナプス面の受容体数がより増えることが望ましい。そうであれば、シナプス伝達が増加するためには、あわせてシナプス基部の括約作用が緩むことが、より効率の上昇をもたらすとも考えられる。そこで、ケージドグルタミン酸を光によりリリースし、局所で脱分極をもたらした際のスパイン基部の変化を検討するなどの実験により、スパイン基部の形態に対する頭部の役割について検討を進める。 実験(4)アクチン線維の動態の検討。スパイン基部の変化に際し、アクチン線維の走行がどのように変化するかを検討する。たとえば、アクチン線維を生細胞で可視化できるF-actin結合プローブであるLifeAct-mcherry(Roland et al., eLIFE, 2014)を発現させ、影響を評価、検討する。上述のとおり、電子顕微鏡により新たなデータが得られたため、その重要性も鑑み、他の実験より優先させ、本実験を行う。
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