研究課題/領域番号 |
17H04015
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40229422)
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研究分担者 |
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70455343)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 石灰化 / 耳小骨 / 内軟骨性骨化 |
研究実績の概要 |
1. 耳小骨で見出した「内軟骨性骨芽細胞」を「超石灰化骨芽細胞」と命名し、詳細な解析を進め、放射光施設SPring-8も活用した。この骨芽細胞は、耳小骨だけでなく内耳骨の形成にも寄与していることが分かった。ツチ骨短突起に加えて、鼓膜に接する「ツチ骨柄」についても内軟骨性骨化過程を細胞レベルで観察した。ツチ骨柄は聴覚機能を担う部位であり、機能と直結した形態形成の場としての意義がある。さらに、頭蓋底の底後頭骨(斜台)の骨化後の変化を解析し、破骨細胞と骨芽細胞が、皮質骨の裏と表で、それぞれ骨吸収と骨形成を行う現象を解析し、「トランス・カップリング」と命名して論文発表した(Edamoto et al)。また、成長板依存的な内軟骨性骨化を起こす骨として、マウス脛骨と腓骨を詳細に解析した。脛骨の骨端部に神経の侵入を認めたので形態学的に解析し、論文発表した(Matsuo et al)。さらに、生後のマウス腓骨でも、頭蓋底と同様な「トランス・カップリング」が起こっていることを見出し、国内学会で発表した。 2. 国際学会での高い評価:米国骨代謝学会で本研究の「超石灰化骨芽細胞」に関する発表要旨が高い評価を受け、口頭発表(トップ12%程度)に選ばれ注目された。 3. 国際共同研究の成立:ウイーンのボルツマン骨学研究所との共同研究がスタートし、マウスの耳小骨と大腿骨を比較しながら骨密度分布を計測する態勢が整った。これにより、耳小骨の内軟骨性骨化でできる骨基質と、長管骨の成長板依存的な内軟骨性骨化によってできる骨基質との差が客観的に判明すると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
内軟骨性骨化という、多様な骨で基盤となる骨形成過程の細胞メカニズムを研究対象としているため、様々な発生時期の様々な骨を観察することになり、本来の研究目的の進展に加えて、新しい形態学的知見や概念に到達した。 長管骨の内軟骨性骨化を担う成長板は、無血管・無神経の軟骨細胞から構成されており、その両側の骨幹端と骨端には豊富な血管・神経が到達している。マウスの脛骨の骨端側の神経は、膝関節に面した特徴的な骨孔から侵入していたが、文献的な記述がほとんどなされていなかったので、マイクロCTと組織学的解析データを基に論文化された(Matsuo et al., 2019)。さらに、内軟骨性骨化で形成される底後頭骨では、「超石灰化骨芽細胞」の存在は明確でなかったものの、皮質骨を挟んて脳側には破骨細胞が、咽頭側に骨芽細胞が分布しており、脳幹の成長に伴い、頭蓋内の体積の拡大に寄与しているものと考えられた。この特徴的な破骨細胞と骨芽細胞の分布は、脳からの力学的負荷によるものである可能性を示し、「トランス・カップリング」と命名して論文発表を行った(Edamoto et al, 2019)。この概念は、長管骨の皮質骨でも成立していることを見出した。「超石灰化骨芽細胞」も国内外の学会で注目されており、どのようにして石灰化度が高まるのか、その細胞系譜はどのようなものかなど、解明すべきポイントが明確になってきた。
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今後の研究の推進方策 |
「超石灰化骨芽細胞」の存在は明確になってきた。今後はメカニズムの解明を行う。まず、従来の骨芽細胞の細胞系譜との違いを明確に示す必要がある。シングルセル解析に進む準備をしており、軟骨細胞や従来の骨芽細胞とは異なる、新たな細胞集団であることを示したい。次に、石灰化度の高い骨になるメカニズムの解明である。2型コラーゲンを産生するなど、従来の骨芽細胞とは異なるタンパク質を産生していることが分かっている。「超石灰化骨芽細胞」に特異的なタンパク質が、石灰化度を高めるメカニズムを担っているかどうかを解析する。石灰化度の解析には、工学的な手法を必要とするため、専門性の高い研究グループとの共同研究を強力に推進する。
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