研究実績の概要 |
低分子量Gタンパク質Rasと標的分子複合体のうち、Ras-PI3K複合体のみがエンドソーム移行する分子メカニズムの解明を目指した。標的因子のRas-binding domain(RBD)のアミノ酸配列解析により、PI3K-RBDに存在する特徴的な配列を同定した。この配列を欠損させるとRas-PI3Kのエンドソーム局在が抑制されたことから、Ras-PI3K endosomal localization domain(RAPEL domain)と命名した。RAPEL過剰発現によりエンドサイトーシスが抑制された。また、エンドサイトーシスを介して細胞に侵入するインフルエンザウイルスの感染も抑制された。さらに、RAPELと細胞膜透過性ペプチド(cell penetrating peptide, CPP)との誘導ペプチドを合成した。ペプチドを導入した細胞にインフルエンザウイルスを暴露したところ、感染抑制効果が認められた。以上より、RAPELはペプチド療法にも応用可能であることが示された。これらの結果は、現在学術雑誌に投稿、リバイス中である。 一方、上記の結果は、RAPELに結合する因子がRas-PI3K複合体のエンドソーム移行とエンドサイトーシスを制御することを示唆するものである。RAPEL結合因子を質量分析法と酵母ツーハイブリッド法でスクリーニングしたところ、合計50個の因子が同定された。このうち、8個がミトコンドリアの物質輸送に関連する分子であった。このうち、因子Xについて詳細な解析を行ったところ、この因子のノックダウンでエンドサイトーシスが抑制された。一方、他の因子Yをノックダウンしたところ、エンドサイトーシスが亢進した。すなわち、XはRas-PI3Kシグナルによるエンドサイトーシス制御に対する正の制御因子でること、Yは負の制御因子であることが明らかになった。
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