研究課題/領域番号 |
17H04017
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
老木 成稔 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (10185176)
|
研究分担者 |
岩本 真幸 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40452122)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | イオンチャネル / 脂質二重膜 / 膜張力 / in vitro転写翻訳 / コレステロール / ゲーティング |
研究実績の概要 |
細胞膜は分子・細胞・組織という階層の中で生理機能の中核となる反応の場であり、イオンチャネルはその電気的特性によりこの階層をまたいで活動する。チャネルの機能は、脂質2重膜を構成するリン脂質との化学的相互作用など、チャネル-膜系を一体として捉える必要があるが、生体膜は複雑すぎて有効な実験法は限られている。この複雑な課題に人工膜を使った全く新しいアプローチで挑戦するのが本研究である。チャネルと膜を人工膜で再構成することを通して、チャネル-膜系の密接な相互作用の動作原理を明らかにする。ここで最近の人工膜法の急速な発展が本研究の実現性を保証する。膜を中心にした統合的実験法を系統的に構築することで、分子・細胞・組織の階層を昇る「再構成生理学」という新しい学問分野を確立したい。 再構成の一つの成果がin vitroチャネル機能発現法の成功である。in vitro転写・翻訳のためのキットは多数あるが、その中で転写・翻訳のための化学組成を精製蛋白質などで再構成した系を利用した。そして私達が開発したcontact bubble bilayer (CBB)法によって形成した水相の一方にin vitro転写・翻訳系を満たし、これにチャネルのDNAを加えた。チャネル蛋白質は10数分後に膜に組み込まれチャネル機能を発現した。この方法により、従来大腸菌での発現・精製という数日に渡る準備期間を短縮することができた。さらに、チャネル機能発現に膜電位が関わることを始めて明らかにした。 再構成のもう一つの成果が、脂質二重膜において生体膜で起こりうる膜脂質組成の変化を急速に行う実験系を確立したことである(急速灌流法)。 これによりコレステロールのチャネルに対する効果を初めてリアルタイムで捉えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vitroチャネル機能発現は予想以上に簡単にチャネル機能を観察することができた。この方法をさらに発展させたい。 膜コレステロールのイオンチャネルの効果は様々検討されてきたが、今回、コレステロールなどのステロールによって膜張力の減少が起こり、これがチャネルのゲートを閉じさせていることを始めて明らかにした。チャネルに対する膜組成という化学的な要素と膜張力という物理的な要素が融合されたことになり、チャネルに対する新しい膜作用という研究領域が確立されたことになる。 膜機能を再構成する上で水透過性を評価し、制御することは極めて重要である。今回、膜の水透過性測定のための実験系もほぼ確立することができた。従来、膜の水透過性の測定では様々な問題のため正確に測定できなかった。脂質二重膜の水透過性を測定するための新しい実験法を考案し、実際に測定することに成功した。とくに従来問題となった非攪拌層を評価するための全く新しい方法を確立することで、従来よりも精度の高い測定が可能になった。
|
今後の研究の推進方策 |
In vitroチャネル機能発現法に関しては、膜の安定性の問題がある。大量のチャネルが発現することでチャネルの膜安定性が下がるのである。チャネル蛋白質発現量を調節することによって膜安定性を確保したい。 私達が開発したCBB法を使うことによって、膜張力とチャネル機能を同時に測定できるようになった。ただ現在の方法では実験後に画像処理する必要があり、実験中に膜張力を測定できるわけではない。そこでリアルタイムで膜張力を測定する方法を考案し、現在確立しつつある。 水透過性実験ではすでにイオンチャネルを再構成することにより、チャネルの水透過性も測定している。今後アクアポリンを組み込んだ膜で水透過性を測定したい。
|