研究課題
迷走神経刺激依存性の心臓徐脈に機能するG蛋白質制御内向き整流性カリウム(KG)チャネルは、G蛋白質共役型受容体-G蛋白質-効果器(R-G-E)シグナルの典型的な効果器として研究されている。これまで我々は、R-G-Eシグナルの数理モデルを構築し、心臓徐脈分子機構を解析してきた。しかし、近年上室性不整脈時の異常KGチャネル活性や細胞質因子による受容体リガンド応答の調節等、既存の概念では合理的に説明できない知見が報告された。これらの示唆する未知の生理調節機構の解明を計り、数理モデルの精密化を目指すことが研究目的である。我々は以前acridine骨格を有する化合物がKGチャネルの属するKirチャネルを阻害することを報告した。一方で、類似化合物である消毒薬acrinolが特徴的な薬物作用機序を示すことも判ってきた。即ち、proflavine等のacridine誘導体は細胞質側からアクセスし、中心洞に結合するのに対し、acrinolはチャネルの細胞外領域に結合して、阻害活性を示す。洞結節細胞には、KGチャネルだけでなく、多くの類似Kirチャネルが存在する。Acrinol型の阻害作用はKirチャネルサブタイプに選択的であるため、モデルの精密化に欠かせないイオン電流の構成成分の定量化を可能とすることが期待された。チャネルの細胞外領域に結合し、チャネルを活性化する薬物も見出されている。そのため、これらの知見は、チャネルの開閉は膜貫通領域、細胞質領域に限局された領域での分子運動ではなく、分子全体の構造変化を伴うこと、その構造に親和性を示す化合物はチャネル活性を調節できることを示唆した。さらに、細胞外から直接チャネルに結合する薬物には特異性が期待できる。そのため、Kirチャネルを標的とする新たな作用基盤を持った創薬の可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
RGS蛋白質による部分アゴニストの作用発現を解析するため、R-G-E連関に機能的に共役するRGS蛋白質の動的な挙動と分子連関の解明を目指し、全反射顕微鏡を用いた一分子の挙動の直接測定を目指している。そのために必要なコンストラクトの作成を行った。R-G-Eシグナル修飾因子のチャネル活性に対する作用を解析するため、様々なシグナル阻害薬を用いた電気生理学的解析を行った。また、KGチャネルの短期脱感作を支える分子機構を解析するため、cell-attachedモード観察される単一チャネル活性の脱感作現象の再現性を確認した。研究中に、Kirチャネルを選択的に抑制する新規阻害作用を有した薬物を見出した。本薬物はサブタイプに選択性を示すため、数理モデルの精密化に欠かせないイオン電流の構成成分の定量化を可能とすることが期待された。
チャネルの機能状態と上室性不整脈との連関を数理解析するためには、現有する心臓徐脈分子機構の数理モデルに拡張性を持たせる必要がある。そこで、本研究では、1) RGS蛋白質による部分アゴニストの作用発現、2) R-G-Eシグナル修飾因子のチャネル活性に対する作用、3) KGチャネルの短期脱感作の分子機構を、モデル細胞、単離心房筋細胞を用いて計測する計画である。その中で、来年度は、短期脱感作現象に焦点を当てる。我々は心房筋細胞で生理的に測定される短期脱感作機構を組込んだR-G-Eシグナルの数理モデルの構築に成功している。この機構は高次組織モデルである洞結節活動電位発生モデルで、強い迷走神経刺激で生じる一過性の心停止を再現するための必須要因であった。しかし、我々は、単一チャネル活性もまた、同様の時間スケールで、脱感作反応を示すことを観察している。この現象は急性単離細胞のみならず、異所性チャネル発現細胞でも観察されるため、普遍的な内因性のチャネル調節機構であることが推定された。この現象を全細胞電流測定法で解析する。細胞内に対応するガラス電極液中のR-G-E連関を修飾する液性因子、リン酸化酵素やPIP2代謝酵素の阻害剤を添加することにより、短期脱感作の分子機構を特定することを中心に同機構の特定を目指す。さらに、R-G-E連関に機能的に共役するRGS蛋白質の動的な挙動と分子連関の解明を目指し、全反射顕微鏡を用いて、一分子の挙動で直接測定する。GPCRのリガンド刺激に対する動的な振る舞いを検討することで、R-G-Eシグナル伝達分子の生物物理的な連関をパラメーター化する。これらの解析から得られた結果を数式化し、ロバストなR-G-Eシグナルシュミレーションモデルの構築を行う。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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