研究課題/領域番号 |
17H04020
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
掛川 渉 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70383718)
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研究分担者 |
鈴木 邦道 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (10713703)
大塚 信太朗 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30772397)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シナプスオーガナイザー / C1qファミリー分子 / シナプス刈込 / 運動学習 / シナプス架橋構造 |
研究実績の概要 |
脳内の神経細胞をつなぐ「シナプス」は、記憶の獲得や種々の精神神経疾患に関わる重要な部位である。私たちは、自然免疫系補体C1qの機能ドメインを有するC1qファミリー分子が中枢シナプスの形成および機能に深く関与することをこれまでに明らかにしてきた (Science '16; Neuron '16, '15; Science '10)。中でも、新しいC1qファミリー分子として同定されたC1q様分子1 (C1qL1) は、運動記憶をささえる小脳の登上線維シナプスから分泌され、同シナプスの形成・除去 (刈り込み)、シナプス可塑性および運動記憶を制御する (Kakegawa et al., Neuron '15)。しかし、C1qL1が登上線維シナプスでどのように機能を発揮しているかは不明である。そこで本計画では、C1qL1が構築しうる新規シナプス架橋構造に着目し、小脳登上線維シナプスにおけるC1qL1の役割を解明することにより、C1qファミリー分子の普遍的かつ新しい動作原理の確立をめざすことにした。 まず、いったん形成された登上線維シナプスの維持過程において上記シナプス架橋構造が必要かどうかを、各分子RNA干渉技術を用いて検討した。成熟野生型マウスの登上線維においてC1qL1を急性除去すると、同シナプスは外れ、その後、登上線維の異常な退縮が認められた。また、それに伴って、シナプス応答の低下や代表的なシナプス可塑性の1つである長期抑圧現象にも障害を生じた。さらに、C1qL1を除去した成熟マウスでは、小脳依存的な運動学習も有意に低下することが確認できた。興味深いことに、これらの所見は、C1qL1の受容体として働くBAI3の急性除去においても再現された。以上の結果から、登上線維シナプスの維持過程においてもC1qL1-BAI3によるシナプス架橋構造が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、C1qファミリー分子を介する新規シナプス架橋構造がシナプスの形成機構ばかりでなく、維持過程においても重要な役割を担っていることを明確にすることができた。本成果は、当該研究課題の目標である「中枢シナプスの形成・動作原理の解明」に有益な情報となるものと期待されるため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新規シナプス架橋構造の機能様式についてさらに解析を進めていく予定でいる。同シナプス架橋構造が細胞外接着因子として働くばかりでなく、細胞内のシグナル経路を制御しうるかどうかについて検討する。具体的には、C1qファミリー分子に結合した受容体分子がシナプス前部およびシナプス後部の形態や機能を制御しうるシグナルに関わっているかどうかを深く追究していきたい。
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