セロトニン再吸収阻害剤研究は「セロトニン=抗ストレス」概念を生んだが、最新生理学研究はむしろ恒常的な中脳ドパミン神経活動の重要性が説かれる。本計画の目的は、この矛盾を解明しストレス感受性における3種モノアミン神経活動の相互作用とドパミンの本当の役割を明らかにすることである。慢性物理ストレス負荷中、負荷後に、3種モノアミン神経活動とその後のストレス感受性を計測し、各モノアミン神経活動の優位性と役割をまず推定した。その結果を薬理遺伝操作法等を用いてドパミン神経を手始めにモノアミン神経の活動を介入操作することで、社会行動ストレスへの脆弱性がどのように形成されるかを考察する計画を実施した。この最終年度においては、ストレス感受性・耐性におけるセロトニン神経発火活動の役割を、①生理学的測定、②神経化学的測定、③行動科学的測定を通して実施した。SAGE社よりライセンス購入し、繁殖させたTPH2-CREドライバーラットの背側縫線核にDREADDベクターAAV-hM3Dqを発現させたのち、人工リガンドCNOを浸透圧ポンプより2週間投与して、慢性的なセロトニン神経発火の亢進をめざした。麻酔下での単一ユニット記録によると、上記の操作でセロトニン神経を約2.5倍上昇させることができた。その時の社会行動量を、新規動物に対する臭い嗅ぎ行動時間で評価したところ、倍増していた。同時に、その他のモノアミン神経活動への影響も評価した。腹側被蓋野のドパミン神経の発火は3分の2に減少していたが、青斑核のノルアドレナリン神経の発火には影響がなかった。これまでのデフォルト基底状態でのドパミン発火とストレス反応性に強い逆相関がある事実を考慮すると、デフォルト基底状態でのドパミン発火が、セロトニン神経活動の下流に存在して、その後のストレス感受性・抵抗性を規定していることが示唆された。
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