研究課題
K562細胞でH3K27me3修飾酵素SUZ12をノックダウンし、H3K27me3修飾が全ゲノム上で著しく低下させた際に、RNAシークエンスを行い、転写が増加する遺伝子の同定を行った。今年度は、SUZ12をノックダウンし、転写量が変化する遺伝子の転写伸長速度を測定するための条件検討を行った。まず、RNA ポリメラーゼIIによる転写の阻害剤であるDRB処理について、DRB の濃度(10~100μM)と処理時間(2時間~8時間)の至適化を行った。その結果、高濃度・長時間の処理によって転写を完全に阻害するとアポトーシス誘導の影響があることが判明し、安定的なデータ取得できるDRB濃度及びDRBの処理時間を決定した。次にDRB含有培養液を洗浄し、BrU含有培養液で新規合成RNA をラベルする時間についての検討を行った。DRB含有培養液を洗浄後、4分から20分まで4分ごとに細胞を回収し、まず、pre-mRNA を調整してintron-exon 境界に設定したプライマーを用いてqPCR法を行い、転写の回復過程を観察した。さらに抗BrU抗体で新規合成RNA を免疫沈降によって濃縮し、同プライマーを用いqPCR 法でラベルされているRNA量の定量を試みた。しかし、定量的な検討を行うには十分量のRNA が得られず、今後、用いる細胞数、RNAの回収方法、免疫沈降方法などの条件を最適化する必要がある。一方で、SUZ12のノックダウンによって転写が増加した遺伝子について、H3K36me3の修飾が亢進していることは確認された。
3: やや遅れている
今年度は、H3K27me3修飾量と転写伸長速度が逆相関していることを確認することを計画していた。しかし、伸長速度を定量的に計測するための条件検討に時間がかかり、相関性を確認するに未だ至っていない。伸長速度を計測するために用いているDRB は、用いる細胞によって毒性と効果が著しく異なることがわかり、これまでに報告されている濃度や時間を越えて、丁寧な条件検討を行う必要があった。Pre RNA量の測定はこれまでにも多くの経験を積んでおり、DRB 処理によってpre-RNA 量の減少を定量的に測定することは可能であったが、本研究課題の目的である伸長速度を測定するためには、単位時間あたりに転写されている量を測定することが必要である。そのために伸長RNAをラベルし、それを指標に免疫沈降によって回収する計画であった。現在このステップの条件を検討しているが、定量的なデータを取得するために十分量のRNA を効果的に回収することが現在の課題である。
RNAの伸長速度を決定するために、単位時間あたりに伸長したRNAを対象に核酸アナログを用いてラベルし、当該RNAを回収する。現在、このステップの条件検討を行っている。十分量のRNA が回収できれば、時間経過を追って定量的PCR を行う。さらにH3K27me3修飾酵素SUZ12をノックダウンすることで、H3K27me3修飾量と転写速度の関係性を明らかにし、H3K27me3の生物学的意義を明らかにする。また、プロモーター領域にsgRNA を設計し、ヌクレアーゼ活性を欠失させたdCas9 のカルボキシル末端側に転写活性化因子Vp64を融合させたdCas9 -Vp64をプロモーターへリクルートする。これを用いてH3K27me3修飾と転写伸長速度との関連を調べる。すでに私たちはNIH3T3細胞でこの方法を用いて転写を強制的に誘導すると、転写活性化とともにH3K27me3が消失することを報告している。本研究課題では、K562細胞を用いて、転写の活性化だけでなく転写伸長速度も測定する。さらにSUZ12をノックダウンすることで、H3K27me3量を減少させ、この時転写が活性化する遺伝子と活性化しない遺伝子についても強制的転写誘導を行い、転写伸長速度を測定する。また、H3K36me3の修飾量を調べることで、転写伸長速度との相関について調べる予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
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