研究課題/領域番号 |
17H04038
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
秋山 泰身 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50327665)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自己免疫 / 胸腺 / T細胞 / 上皮細胞 |
研究実績の概要 |
1. 転写因子Xを胸腺上皮特異的に欠損するマウスの作成:全身で転写因子Xを欠損するマウスは胎生致死であるため、胸腺上皮細胞特異的にCreを発現するFoxn1-Creマウスと交配させ、胸腺上皮細胞特異的にXを欠損するマウス(以下、胸腺上皮特異的X欠損マウス)を作成した。 2 .胸腺構成細胞の分化における転写因子Xの機能解析:胸腺上皮特異的X欠損マウス由来の胸腺を、常法に従い(コラゲナーゼ処理で分散して単細胞とし、フローサイトメーターで解析した。その結果、転写因子Xを胸腺上皮細胞で欠損すると、CD80の発現が低い胸腺髄質上皮細胞の画分が約半分に減少した。一方で、CD80の発現が高い髄質上皮細胞や皮質上皮細胞には有意な変化は見られなかった。 3. 転写因子Xを発現する髄質上皮細胞の同定:髄質上皮細胞をCD80の発現が高い画分と低い画分に分けてセルソートし、胸腺上皮細胞のどの画分に発現するのか検討した。その結果、CD80の発現が低い髄質上皮細胞で高く発現し、CD80高発現髄質上皮細胞での発現は低かった。また皮質上皮細胞では、ほとんど発現していなかった。 4. 転写因子X依存的に髄質上皮細胞で発現する組織特異的遺伝子の同定:胸腺特異的なX欠損マウスの胸腺をコラゲナーゼで単細胞とし、CD80高発現髄質上皮細胞、CD80低発現髄質上皮細胞、皮質上皮細胞を各々のマーカーによりセルソーターで分取した。分取した細胞の遺伝子発現をRNA-seq解析し、転写因子X依存的に発現する組織特異的遺伝子を同定した。一方で、AireやFezf2の欠損マウスから同様に胸腺上皮細胞を分取しAireとFezf2に依存して発現する組織特異的遺伝子を決定した。両者を比較したところ、転写因子Xに依存する組織特異的遺伝子は、AireやFezf2に依存して発現する組織特異的遺伝子とは大きく異なることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は1. 転写因子Xを胸腺上皮特異的に欠損するマウスの作成、2 .胸腺構成細胞の分化における転写因子Xの機能解析、3. 転写因子Xを発現する髄質上皮細胞の同定、4. 転写因子X依存的に髄質上皮細胞で発現する組織特異的遺伝子の同定、を目指した。 FloxマウスとFoxn1-Creマウスを用いて、全胸腺上皮細胞特異的にXを欠損するマウス(以下、胸腺上皮特異的X欠損マウス)の作成は順調に行えた。 その後、実験2において、胸腺上皮特異的X欠損マウスの胸腺上皮細胞をフローサイトメーターで解析したところ、予想外なことにCD80の発現が低い胸腺髄質上皮細胞の画分が約半分に減少することが判明し、続く遺伝子発現解析に約2ヶ月の遅れが生じた。 ついでセルソーティングによる転写因子X遺伝子の発現解析も順調に進んだ。一方で、免疫組織による発現解析は、抗体の選定に予想外の時間を要したが、最終的には、年度内に終了できた。 さらに胸腺上皮特異的X欠損マウス由来の胸腺上皮細胞について、遺伝子発現をRNA-seqにより解析し、転写因子X依存的に発現する組織特異的遺伝子を同定した。一方で、AireやFezf2の欠損マウスを準備し、同じプラットフォームで組織特異的遺伝子の発現プロファイルを比較したところ、転写因子Xに依存する組織特異的遺伝子は、AireやFezf2に依存して発現する組織特異的遺伝子とは大きく異なることが判明しており、これまでの因子とは異なる機能を持つことが明らかとなった点で、今後の展開が期待できる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には予想外の知見から、一部に遅れが生じたが、それらの遅れは既にほぼ取り戻している。またRNA-seq解析から、新たな発見が生じており、到達目標の一つを既に達成した。また得られた結果も、当初の仮説にほぼ合致しており、現在の研究推進の予定に問題はない。 以上の状況から引き続き、以下を行っている、計画4.転写因子Xの欠損による自己免疫疾患発症の検討、計画5. 髄質上皮細胞において転写因子Xが結合するゲノムDNA領域の同定、計画6. 転写因子Xに依存した髄質上皮細胞のエピゲノム変化の検討、計画7. 転写因子Xに結合するタンパク質複合体の同定
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