研究課題
胸腺髄質に局在する上皮細胞(mTEC)は、多種類の組織特異的タンパク質を異所的に発現して抗原提示し、それら自己抗原に応答するT細胞を胸腺内で除去することで、自己免疫疾患の発症を抑制する。本研究は、mTECの組織特異的遺伝子発現を制御し、自己免疫疾患の発症を抑制する、新たな転写因子を同定し、ついで、その生理機能を解明することを目的とする。前年度までに、これまでAireやFezf2により制御されない組織特異的遺伝子の発現誘導に重要な転写因子Xについて、胸腺上皮細胞特異的に欠損するマウスを作成した。またその欠損マウス由来の胸腺上皮細胞で発現する遺伝子を、RNA-seq解析により網羅的に解析し、組織特異的遺伝子の発現が減少していることを確認した。またフローサイトメーター解析から、髄質上皮細胞の一部が減少していることが判明した。その結果を踏まえ、今年度は以下を行った。1. シングルセルRNA-seqシークエンシングによる解析:転写因子X欠損マウスで減少している細胞群を同定し、遺伝子発現の減少が、特定の細胞の減少によるのか、あるいは遺伝子発現が減少しているのか調べた。その結果、CD80lo mTECが減少すること、CD80lo mTEC細胞数の減少だけでなく、各細胞で発現する遺伝子量が減少することが判明した。2. ATAC-seqによるクロマチン構造の解析:転写因子Xが胸腺上皮細胞のクロマチン構造に与える影響を検討するために、ATAC-seqを行った。その結果、転写因子X依存的に誘導される組織特異的遺伝子のプロモーターおよびエンハンサー領域が、転写因子X依存的にオープンすることが判明した。以上の結果は、転写因子Xが胸腺上皮細胞の組織特異的遺伝子発現を誘導することを強く示唆する。
2: おおむね順調に進展している
胸腺髄質上皮細胞で組織特異的遺伝子の発現を誘導する新たな転写因子を同定できた。またシングルセルRNA-seq解析により、細胞比率の変化による遺伝子発現の変動でないこと、ATAC-seqによりクロマチン構造の変化を引き起こすことが判明し、既存の制御因子であるAireやFezf2とは異なる制御機構を持つとの結果が得られた。シングルセルRNA-seq解析やATAC-seq解析などを遂行するための実験条件の決定に、予想よりも時間を要したが、様々な検討を重ねて、十分な品質の実験データを得ることができた。
今後は、当該転写因子の欠損による自己免疫誘導を確認することが重要である。またAireやFezf2など、組織特異的遺伝子な発現を誘導する既知の転写因子と機能を比較する必要がある。具体的には、同じ実験条件下で、他の欠損マウス髄質上皮細胞の遺伝子発現を比較し、標的となる組織特異的遺伝子の違いを明らかにする。さらに、自己免疫状態の相違についても精査する予定である。また詳細な分子機構も検討するために、シングルセルレベルでの遺伝子発現をより深く解析すること、クロマチン構造の変化をさらに検討することなども実施する予定である。これらの解析により、自己免疫疾患の発症抑制に必要な新たな機構を明らかにできると期待される。
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Biochem. Biophys. Res. Commun.
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