本研究ではがん組織で特徴的に見られる酸性環境の中でがん細胞がどのようにして活発に増殖できるのか、具体的な分子機構を明らかにするとともに、その医学生物学的重要性について追究するため、培養細胞、マウス、線虫の3つの実験材料を用いて多面的な解析に取り組んでいる。培養細胞を用いた解析ではこれまでの成果として得られた酸性環境適応への関連が示唆された候補遺伝子の重要性を個別に検証し、特にlysosomal exocytosisに重要なミオシンファミリー分子が必須の働きをしていることをRNAiによるノックダウンだけでなく、遺伝子ノックアウト実験によっても確認することができた。細胞の酸性環境適応におけるlysosomal exocytosisの重要性をさらに強く示す実験結果と考えられる。またその他にも、特定の亜鉛イオントランスポーターのノックダウンによって酸性環境適応が阻害されることも見つかった。亜鉛イオンがどのように作用しうるのかについては現状でまったく分かっていないが、将来解析してゆく価値が十分にある成果と考えられる。また線虫での関連遺伝子解析から候補として上がってきたカルシウムイオンチャネル分子を哺乳動物系の培養細胞でノックダウンやノックアウトして、その機能的重要性の解析を進めた。その結果、lysosomal exocytosisだけでなく酸性環境適応においても重要であることが確認できた。またマウス生体内での造腫瘍性を調べたところ、PRL高発現の効果をキャンセルできることを示唆する実験結果も得られた。これらの研究成果を総合して、PRLの高発現はlysosomal exocytosisを活性化することによって細胞のpH応答性を大きく変化させ、pH 6.5などの酸性環境で選択的に機能できるようにしており、それが腫瘍形成に重要であると結論した。
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