遺伝性感音難聴は、高頻度な遺伝性疾患である(出生率: 1/1000)。また、老人性難聴患者は、国内で約1500万人と驚く程多いにも拘らず、研究の困難さも加わり、治療法開発が進んでいない。申請者は、常染色体優性遺伝性感音難聴1(DFNA1) の新規遺伝子変異患者を発見し、マウスモデルを作製、世界で初めてDFNA1の病態解明に成功した (EMBO Mol. Med. 2016)。更に、新たにこのマウスと患者が、血球系異常を呈する事を発見した。本研究では、モデルマウスを用いて、DFNA1に付随して起こる全身病態と難聴発症機序の詳細解明を目指す。
1. 新規DIA1変異体発現TGマウスに音響暴露負荷を行った。音響暴露後、TGマウスでは野生型マウスに比し、高音域を司る有毛細胞内のリボンシナプス数が有意に低下することを明らかにした。このことは、DFNA1患者での進行性の難聴が、騒音などの後天性負荷により影響を受けることを示唆した。 2. 上記TGマウスに加え、新規DIA1変異体を発現するKIマウスを作製して、新規DIA1変異体の発現細胞と細胞内局在を解明することで、DFNA1の病態機序を明らかにした。即ち、新規DIA1変異体は、蝸牛らせん神経節細胞、支持細胞、有毛細胞に存在し、有毛細胞では頂側結合に局在した。培養細胞を用いた実験では、頂側結合に局在した新規DIA1変異体は、頂側結合を波打ち状に変化させた。透過電子顕微鏡で、TGマウスの頂側結合を観察すると、種々の形態異常が存在した。このことより、DFNA1の進行性難聴を引き起こす主要病変部位は、頂側結合であることが示唆された。 3. TGとKIマウスを用いて、経時的に血球解析を行った。加齢により、血小板径にバラツキが顕在化してくる傾向が捉えられた。現在、血小板異常が出現する時期や機序について、詳細を解明している。
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