研究課題
この世に最初の細胞が生まれた時、そこには遺伝情報を司る核酸と、それを包み込み環境変化から守る膜が存在した。そうであれば細胞膜の傷を修復する「細胞創傷治癒」の仕組みは、生命誕生の瞬間から必要とされただろう。細胞膜損傷はデュシェンヌ型筋ジストロフィー症を始めとする様々な疾患に関与するが、その分子機構の全貌を俯瞰するには至っていない。申請者は細胞膜損傷はその程度に応じて細胞周期を一時停止するチェックポイント、細胞周期を恒久的に停止する細胞老化、細胞死(アポトーシス)という異なる細胞の運命を導くことを見出している。細胞膜損傷が軽微である場合、出芽酵母において報告されている分子機構と同様に、DNA複製を行うマシナリーの分解が認められ、さらに細胞周期を停止させるタンパク質群が安定化されていた。細胞膜損傷が重篤になると転写プロファイルが変化し細胞周期の不可逆的停止に必要なタンパク質群の発現誘導が認められ、さらに重篤になるとアポトーシス様の死が誘導された。今年度は細胞膜損傷による細胞周期停止機構の詳細を検討した。その結果、細胞膜損傷に応答したチェックポイントは、当初予想していたG1期のみならず、G2/M期やM期途中にも存在することが見出され、p53がその鍵を握る分子であることが明らかになった。さらにがん細胞と正常細胞とで膜損傷による細胞運命決定に違いがあり、がん細胞は細胞老化を回避して増殖を続ける独自の分子機構を持っていることが示唆された。本研究成果は将来的に新たながん治療法の開発につながる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
当初予想していなかった分子機構が見出されたほか、最終年度に計画していた結果の一部が既に得られているため。
おおむね計画通りに研究は進行しており、研究方針に変更はない。研究計画に従い研究を遂行する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: 981
https://doi.org/10.1038/s41467-019-08957-w