研究課題/領域番号 |
17H04054
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
田中 信之 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (80222115)
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研究分担者 |
清水 幹容 日本医科大学, 大学院医学研究科, ポストドクター (00774358)
弦間 昭彦 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (20234651)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / IL-8 / STAT3 / GLI1 / PRMT5 / O-GlcNAc修飾 / p53 / グルコース代謝 |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、p53の遺伝子変異や機能抑制とがん化のシグナルが合わさって、細胞内のグルコース代謝経路を変化させることでがん幹細胞を作り出していること見出していたが、実際のがん幹細胞を維持するために必要なシグナルの解析を行ない、ヒト肺がんや大腸がんの培養細胞株のがん幹細胞で特異的に発現しているサイトカインやケモカインを解析した結果、IL-8が共通して特異的に発現していることを見出した。更に、IL-8が細胞のグルコースの取り込みとヘキソサミン生合成経路の活性化を介してタンパクのO-GlcNAc修飾を亢進させること、これががん幹細胞の生存・維持に重要であることを見出した。実際に、O-GlcNAc修飾阻害剤であるOSMI1 が腫瘍開始能力を有するがん幹細胞を枯渇させることを示して報告した。更にこの研究と並行して、がんを含む様々な幹細胞の維持に関わるHedgehog経路の標的転写因子であるGLI1が、アダプター分子MEP50 を介してアルギニンアルギニンメチル基転移酵素PRMT5 と複合体を作りGLI1 のメチル化を誘導すること、これらのメチル化がユビキチンリガーゼITCH/NUMB との結合を阻害してGLI1を活性化することを初めて見出し、報告した。この研究を進めて、MEP50 とPRMT5 の両者は転写因子STAT3 によって転写誘導されること、EGFやHGF 等の細胞増殖因子やIL-6 等の炎症性サイトカイン刺激がSTAT3 を介してGLI1 を活性化させることを見出し、この経路ががん幹細胞の発生・維持に重要であることを見出した。これらの解析から、ヒトがん幹細胞の発生・維持に関わる新たな経路として,多くのがん遺伝子シグナルでSTAT3・PRMT5 の活性化を介したGLI1誘導経路、O-GlcNAc修飾の亢進を介した経路がヒトがん幹細胞の発生・維持に重要であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の解析で、等に以下の2つのテーマについて当初の計画以上の進展があった。まず、細胞内代謝経路のリプログラミングによるがん幹細胞の発生・維持機構を明らかにするにおいて、我々はヒト肺がんや大腸がん培養細胞株で、がん幹細胞が特異的にIL-8を産生し、このIL-8がグルコーストランスポーターGLUT3の発現を誘導して細胞のグルコースの取り込みを上昇させること、ヘキソサミン生合成経路のキーとなる酵素 glutamine: fructose-6-phosphate amidotransferase (GFAT)の発現誘導を介してタンパクのO-GlcNAc修飾を亢進させること、これががん幹細胞の生存・維持に重要であることを明らかにした。更に、O-GlcNAc修飾阻害剤OSMI1 ががん幹細胞を枯渇させることを示して報告した。また、Gli1 経路からがん幹細胞発生に関わる経路を明らかにするにおいて、GLI1が、アダプター分子MEP50 を介してアルギニンアルギニンメチル基転移酵素PRMT5 と複合体を作りGLI1 のArg990 とArg1018 がメチル化されること、これらのメチル化がユビキチンリガーゼITCH/NUMB との結合を阻害してGLI1を活性化することを初めて見出し報告した。更に、EGFR陽性非小細胞肺がん細胞をヌードマウスに移植して腫瘍を形成した後でEGFRの分子標的薬であるGefitinib を投与することで腫瘍は退縮するが一定の期間が過ぎると腫瘍は再び増大する。しかし、MEP50, PRMT5, GLI1 のいずれかの発現を抑制する、ないしGLI1の抑制剤を投与すると腫瘍の再発が起こらないことを見出した。更に、RASのシグナルの下流でもこの経路が活性化すること、K-RASの変異が多い膵臓がん細胞でもこの経路が重要であることを見出しており、期待以上の成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
p53欠損MEFにRASを発現させると、早期にがん幹細胞の特徴であるスフェア形成細胞が出現するが、この幹細胞集団での山中因子:OCT3/4, SOX2, KLF4の発現を解析した。興味あることに、これらの因子、特にSOX2 mRNAがRASの導入により300~400倍と極めて高く誘導された。更に、スフェア形成細胞ではSOX2 mRNAの発現が更に増加(Ras導入前からは約1600倍)すること、OCT3/4の発現誘導はスフェア形成細胞のみで見られることから、RASの導入によってSOX2が誘導され、これが引きがとなって起こるエピジェネティックなゲノムの変化によって、少数の細胞でOCT3/4が活性化することでがん幹細胞が発生するのではないかと推測された。そこで、p53欠損MEFにSOX2を発現させたところがん幹細胞が出現すること、ゲノム編集法でp53欠損MEFでSOX2を欠損させたところ、この細胞は活性型H-RASを発現させてもがん幹細胞の発生は見られないことを明らかにした。従って、我々の実験系では代謝の変化とSOX2の発現誘導経路の活性化ががん幹細胞の発生に必要で、この経路を阻害することでがん幹細胞の除去及び非腫瘍形成性がん細胞からがん幹細胞への転換を阻止できるのではないかと考えられた。一方で、ヒトのp53欠損細胞は活性型H-RAS単独ではSOX2の発現誘導は見られず、またがん幹細胞の発生も見られなかった。また、我々が多くのヒトがん幹細胞で自己産生するとこを見出したIL-8は、多くの動物種で保存されているものの、マウスではその遺伝子座自体が存在していないことからヒトとマウスではがん化の原理が異なる可能性もある。そこで、SOX2を含む幹細胞誘導・維持因子にな対するGLI1やO-GlcNAc修飾の制御をヒト細胞を中心に解析するとともに、ヒトがん組織をヒト化に移植して解析を行う。
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