研究課題/領域番号 |
17H04055
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研究機関 | 公益財団法人先端医療振興財団 |
研究代表者 |
星 美奈子 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, 研究員 (30374010)
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研究分担者 |
廣明 秀一 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (10336589)
垣尾 翔大 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, 研究員(研究員・PDクラス) (10789085)
笹原 智也 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, 研究員(研究員・PDクラス) (30735345)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナトリウムポンプ / 神経変性疾患 / 神経細胞死 / アルツハイマー病 / タンパク質ータンパク質相互作用 / ペプチド創薬 |
研究実績の概要 |
申請者らは、Aβ30個が規則的に折り畳まれた球状体ASPD(Parthasarathy et al. JACS2015)が、神経の生存と機能に必須なシナプスタンパク質Na, K-ATPase α3(NAKα3)に選択的に結合し、その機能を阻害し細胞死を起こすことを証明し、アルツハイマー病の新たな神経細胞死機構を提示した(Ohnishi et al. PNAS2015)。その後、パーキンソン病とALSで同様の報告があり、異常凝集体がNAKα3に結合し機能を阻害することによる神経細胞死が神経変性疾患に共通な病態ということが解った。本研究では、ASPDがNAKα3に選択的に結合する構造基盤を理解し、NAKα3の局在と真の機能を解明する。さらに、ASPD形成機構から神経細胞死の伝播機構を解明することを目的とする。 初年度の成果として、NAKα3結合に関わるASPD表面構造は溶液及び固体NMRにより決定した。また、マウス脳によりNAKα3の局在を解析したところ、実は神経細胞においてNAKα1の発現とNAKα3の発現は明確に棲み分けていることが解った。さらに、ASPDとNAKα3の結合様式自体が過去に報告されたことがない新しい様式である可能性が高まり、今後、分子レベルでの解析が極めて重要となり、それを東京大学の豊島近先生との共同研究で進めることとなった。また、NAKα3-ASPDの相互作用を阻害し神経細胞死を阻止するペプチドの定量的評価系の構築に成功し、ファージディスプレイ法から得られたペプチドライブラリーの中から、ASPDによる神経細胞死を阻止できる最小単位のペプチドを同定することに成功した。最後に、成熟神経細胞を用いてASPD形成機構を解明する系の構築に成功し、ASPDが特定の神経細胞内で形成され分泌されることを見出した。
上記のとおり計画は極めて順調に進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請計画書に予定していた計画は全て達成した。それに加えて以下の新たな、極めて重要と思われる知見を得たため。
(1)東京大学の豊島近先生との予備的研究により、NAKα3-ASPDの結合様式自体が過去に報告のない新しい形態である可能性が出てきたこと。その結合部位がパーキンソン病でも共通であるため、新しい形態による新しい阻害様式であることが強く示唆されたこと。 (2)ナトリウムポンプは、ハウスキーピングエンザイムであり、あまりに重要であるため特定の疾患に関わるとは思われていなかった。しかし、NAKα3は神経変性疾患に共通の病因である可能性が高まり、さらに、今回の我々の研究からその分布に大きな偏りがあることから、特定の役割を担っている可能性が高まった。 (3)ASPDの形成が、その突然変異がアルツハイマー病発症に直結するプレセニリンの活性に深く関連することを示す証拠を得た。 上記から予想以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
NAKα3-ASPDの結合様式を解明するためには、真のNAKα3由来のナトリウムポンプを得る必要がある。しかしながら、ナトリウムポンプは相互に極めて似ているため、タグを入れたNAKα3を遺伝子組換えでブタ脳に組み込むこととした。すでに必要な手続きおよび実験準備は完了している。タンパク質が得られたら東京大学の豊島近先生のところで結晶化を行い分子構造を解析する予定である。 NAKα3-ASPDの阻害ペプチドについては、定量的評価系を構築したので、それを用いたアッセイを引き続き行う予定である。表面プラズモン共鳴装置及び成熟神経細胞を用いた機能的解析により、ペプチドからペプチドミメティクスに展開する基盤となる最適なアミノ酸配列を得る。 NAKα3の分布については、in situの結果は論文準備中。さらに、今のところ選択的な良い抗体がないため、選択的な抗体を作成中である。 ASPD形成については論文を投稿中である。さらに、ASPD形成を促進する突然変異を入れたモデルマウスを作製することとして、実際にその実験を開始した。また、CHO細胞やSH-SY5Y細胞などを用いて、ASPD形成を亢進する新たなAPP突然変異体並びに対照としてそれ以外の変異を系統的に導入し、それぞれを用いてASPD形成並びにAPP代謝産物の形成を調べる。特にアルツハイマー病の発症に関与が深いC末端側が長いAβ(42残基以上)について定量的解析を実施し、presenilinによる切断との関係を解明する
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