研究課題
自己免疫性肝炎,原発性胆汁性胆管炎等の慢性炎症性肝疾患で出現する自己免疫現象を攻撃細胞,標的細胞および免疫担当細胞を中心とした肝内微小環境の観点から解析すべく、肝組織からの1細胞レベルの遺伝子発現をともに各疾患の細胞社会における遺伝子プロファイルの基礎的データ基盤を構築しつつある。初年度の成果としては原発性胆汁性胆管炎3例、自己免疫性肝炎1例の肝組織から包括的1細胞遺伝子解析に供することが出来た。ヒト肝組織からの生細胞分散精製、マイクロウェルへの単一細胞注入、各ウェル内でのバーコードオリゴdTによる逆転写、最後に次世代シークエンサーによる各単一細胞由来のmRNA発現網羅的解析の一連のプロトコールを作成することができた。その結果、遺伝子発現に基づく細胞集団の明瞭な分離を確認することができ、また代表的な遺伝子発現に基づくリンパ球、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ(M1,M2),肝細胞等の細胞種同定も可能であった。また、個々の同一細胞種内における遺伝子発現の多様性も見られ、同一細胞種内でも不均一性の目立つ細胞集団で肝炎症は構成されていることが明らかとなった。また、慢性肝疾患で出現する門脈域周囲のケラチン7陽性肝細胞の意義について検討すべく、アルブミン陽性肝細胞の細胞集団からケラチン7発現の有無にて比較検討した結果、予想に反してケラチン7以外の遺伝子発現については明確な遺伝子発現の差異は確認できなかった。現在ケラチン7陽性肝細胞については慢性胆汁鬱滞や胆管細胞への分化等の意義が想定されてきたが、再考する必要が示唆された。なお、胆管細胞については解析に供するだけの細胞数(遺伝子数)を得ることが出来ず、来年度の検討課題とした。
2: おおむね順調に進展している
金沢大学附属病院外科, 独立行政法人国立病院機構 金沢医療センター消化器外科および消化器内科の協力を得て、4例の肝組織材料について包括的1細胞遺伝子解析に供することが出来た。そのうち1例については精度の高い解析結果を得ることができた。現在、遺伝子発現に基づくクラスター毎に、肝細胞、免疫担当細胞の同定を行い、発現遺伝子の解析を行いつつある。初年度の検討課題としては概ね順調と考える。なお、肝内のminor populationである胆管細胞についてはデータを得ることが出来なかったが、想定されていた案件のため、来年度は対策を講じる予定である。
来年度も引き続き1細胞遺伝子解析を行うためのサンプル収集と胆管細胞を含めたminor populationに関する遺伝子情報を得るため、いくつかの対策を講じる。1) 包括的1細胞遺伝子解析(継続解析) ;昨年度、ヒト肝針生検3症例について1細胞遺伝子解析を終了しているが、サンプル数を増やすため本年度も継続して解析を行う。2) 細胞種に基づく遺伝子解析 ;各症例における細胞種の遺伝子発現パターンを解析するために、下記の表面マーカーで分類し、各症例および疾患群における発現パターンの相違をクラスター解析およびパスウェイ解析にて病態の特徴を細胞社会の観点から明確にする。また、PBCの慢性非化膿性破壊性胆管炎等の疾患を特徴づける分子群および病態の病期や活動度を規定する候補分子についても模索する。1.胆管細胞:Keratin 7(KRT7), Keratin 19(KRT19)陽性細胞 2.肝細胞;Albumin, Keratins 7(-)8(+)18(+)19(-)細胞 3.血管内皮細胞:CD31,CD34陽性細胞 4.マクロファージ:CD68陽性細胞、M2マクロファージとしてCD163陽性細胞 5.樹状細胞:CD11c陽性細胞、また胆管上皮層内に分布する樹状細胞としてCD1a, Langerin発現細胞 6.リンパ球:CD3(+)CD4(+)T細胞、CD3(+) CD8(+)T細胞、CD20(+)B細胞3) 研究が当初計画どおりに進まない時の対応 ;昨年度の解析結果より、胆管細胞由来の遺伝子が少なく詳細な解析が出来なかった。想定されていた懸案事項であり、FACS等にて胆管細胞のみを収集し、1細胞遺伝子解析を行うことも予定している。
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