研究課題/領域番号 |
17H04060
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
竹屋 元裕 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 理事 (90155052)
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研究分担者 |
藤原 章雄 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (70452886)
大西 紘二 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (40613378)
哈 斯塔 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 研究員 (00644840)
西東 洋一 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 研究員 (20783567)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍随伴マクロファージ / 腫瘍微小環境 / CD163 / CD204 / 乳癌 / 未分化多形肉腫 / 天然化合物 |
研究実績の概要 |
今年度のヒト組織を用いた検討としては、浸潤性乳管癌149例および未分化多形肉腫62例について解析を行った。浸潤性乳管癌は、線維性間質を有する代表的な乳癌であるが、そのうちトリプルネガティブ乳癌では、CD163陽性TAM(平均146 個/mm2)に比べ、CD204陽性TAM(平均205個/mm2)の浸潤密度が高く、いずれも腫瘍細胞のKi67陽性率と正の相関を示したが、CD204陽性TAM密度がより強く腫瘍細胞の増殖と相関した。さらにCD204陽性TAMの密度は不良予後と相関したが、CD163陽性TAMとCD68陽性TAMでは予後との相関はなかった。CD204陽性TAMの密度と不良予後との相関は、これまで食道癌、膵臓癌、膠芽腫および肺腺癌で報告があるが、乳癌での報告は初めてである。一方、未分化多形肉腫62例の解析では、CD163陽性TAMの密度と不良予後との間に相関がみられた。CD163陽性TAMに注目すると線維性間質を有する乳癌では、その腫瘍増殖賦活作用はCD204陽性TAMより低く、一方、腫瘍細胞とマクロファージが直接接触する未分化多形肉腫ではCD163陽性TAMによる腫瘍増殖効果が強く、CD163分子自体が腫瘍細胞増殖に対して、何らかの機能を担っている可能性が示唆された。 そこで腫瘍増殖に関するCD163分子の役割を解明するため、CD163欠損マウスマクロファージと肉腫細胞との共培養を行うと、野生型マクロファージに比べて欠損マクロファージでは腫瘍の増殖誘導が抑制された。すなわち、マクロファージに発現するCD163は、未解明のメカニズムによって腫瘍増殖を誘導すると考えられた。更にCD163欠損マウスへのマウス肉腫細胞の移植実験では、欠損マウスにおいて有意に腫瘍増殖が抑制されたことから、生体内でもTAMに発現するCD163分子が腫瘍増殖に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍微小環境は腫瘍の増殖進展に大きな影響を与えており、とりわけ腫瘍随伴マクロファージ(TAM)については、その多くがM2型に分化し腫瘍の増殖進展を促進している。本研究の目的の一つは、腫瘍微小環境の性状の違いが腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を介して腫瘍増殖に及ぼす影響について検討することである。 今年度の検討では、腫瘍微小環境の性状が異なる乳癌と未分化肉腫において、CD163陽性TAMとCD204陽性TAMの関与の程度が異なることを明らかにし、腫瘍微小環境の違いが重要であることを示した。さらに、TAMと腫瘍細胞が直接接触する環境にある未分化肉腫では、これまで我々が検討を行った膠芽腫やリンパ腫と同様に、マクロファージの細胞膜に発現するCD163分子自体が細胞間相互作用に関わる可能性が示された。 また、TAMと腫瘍細胞の細胞間相互作用においては、シグナル伝達転写因子STAT3の活性化によってPD-1やPD-L1の発現が誘導されることを明らかにした。このことは、TAMと腫瘍細胞の細胞間相互作用には、これまで我々が検討を加えていたSTAT3が重要であることを再確認し、抗TAM療法の標的として有用であることを示唆している。 以上の検討結果から、今年度の進捗状況はおおむね良好と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の検討から、TAMと腫瘍細胞の細胞間相互作用においてはCD163分子が重要である可能性が示唆されたので、その分子メカニズムについて更に検討を加える。また、TAMの活性化制御を介して抗腫瘍作用を示す天然化合物として、これまでに抽出したcorosolic acidやonionin Aに加えて新規の化合物を同定しており、これらの化合物について、抗TAM作用を検証するとともに、作用メカニズムを明らかにする。さらに、腫瘍微小環境の性状の違いとTAMの機能との関連について、文献的考察も含めて、ヒト腫瘍組織に関して検討を加える。
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