研究課題/領域番号 |
17H04063
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
樋口 京一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20173156)
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研究分担者 |
森 政之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60273190)
矢崎 正英 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (70372513)
宮原 大貴 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 助教(特定雇用) (90823287)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実験病理学 / アミロイド / 疾患モデル動物 / 蛋白質化学 / マウス / 老化 / 伝播 / リポ蛋白質 |
研究実績の概要 |
アミロイドーシスとは蛋白質がアミロイド線維に重合、沈着することによって生体に障害を与える疾患群である。『プリオンと類似した伝播メカニズムの解明』と『線維形成に関与する蛋白質恒常性維持機構の解析』が各種アミロイドーシスに共通する重要研究課題と考え、独自のモデル動物によるin vivo解析とin vitroでの線維形成解析システムを駆使して、蛋白質分子、動物、臨床までのアミロイドーシスの統合的把握を達成する。 平成30年度は、①老化を抑制する運動処方と抗酸化剤投与のアミロイドーシス抑制効果をマウスモデルを用いて明らかにし、そのメカニズムの解析を行った(論文掲載と学会発表)。一方、抗酸化作用とアミロイド形成阻害作用が報告されていたクルクミンでは予想外にアミロイドーシス促進効果が確認され、メカニズムを検討した(学会発表)。老化研究の標準系統であるC57BL/6系統の若齢~老齢マウスを用いて、老化がアミロイドーシスの自然発症と伝播よる発症誘発に与える影響を解析した。②アミロイド蛋白質の末端の除去による線維形成仮説を検証するために、C末端にMyc-tagをつけたApoA-IIトランスジェニック(TG)マウスを用いて、小腸でC末端のMycが切断されたApoA-IIが形成した線維が肝臓や肺での全長蛋白質の沈着を誘発するという仮説の検証を進めた(29年度からの継続)。③新たなアミロイドーシスの動物モデルとして家族性β2Mアミロドーシスの変異β2M (D76N)のTGマウスを作成し、内在性β2Mノックアウト(KO)マウスとの交配を進め、アミロイドーシスの発症を検討した。④in silicoでアミロイド線維形成を阻害すると考えられる化合物(βシクロデキストリン)のアミロイド抑制効果をマウスで検討した。⑤マクロファージ様培養細胞を用いてアミロイド線維の分解及び形成の解析システムの開発を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由: 30年度は29年度に退職した研究分担者が担当していた①線維伸長の末端をブロックするペプチドの開発の研究に遅れが生じた。しかし②抗老化処方によるアミロイドーシス治療法の開発に関しては、運動や抗酸化剤の投与によるアミロイドーシスの抑制効果やそのメカニズムの解析が順調に進んでおり、論文掲載( Dai J et al. Oxid Med Cell Longev. 2019) や国内外での学会発表を行ったのは計画以上の進捗であった。運動での効果に関しては、マウスの匹数を増加して再現性の確認を行っている。従来アミロドーシス抑制効果が報告されてきたクルクミンのアミロドーシス促進作用が明らかになったことは、予想外で興味深く、肝臓でのRNA発現解析(RNA-Seq)など詳細なメカニズムの解析を行っている(学会発表予定)。また老化研究で標準的に用いられている系統である市販のC57BL/6マウスでのAApoAII アミロイドーシスの発症が飼育環境で大きく異なることが明らかになり、自然発症や伝播による誘発へ、老化が及ぼす効果を解析している。③末端が除去されたアミロイド蛋白質による線維形成仮説の検証については、Myc-tag-ApoA-IITGマウスを用いた解析が順調に推移し、戻し交配による遺伝的に均一/内在性ApoA2遺伝子欠損のマウスを安定して供給できる状態になった。しかしホモ個体を得ることが難しく、血中Myc-tag-ApoA-II濃度が比較的低く、アミロイド沈着までに予想より時間がかかり、解析に計画よりも長時間を要している。④血液による伝播現象など、アミロイドーシスに関連する3つの論文が掲載され、またアミロイドーシス関連の国際ミニシンポジウムや全国学会を主催した。⑤新たな動物モデルの作成は変異β2M-TGマウス作成は順調であるが、ゼブラフィッシュモデルの作成は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度に主要な2人の研究分担者(生化学的解析と質量分析を担当)が研究組織から離れたたため、30年度に新たに宮原助教を研究分担者に加えた。2人の研究を補完するのに時間を要しているが、令和元年(平成31年)度には、生化学的解析やプロテオーム解析を加速できると考えている。最も進捗している運動や抗酸化剤の投与によるアミロイドーシスの抑制及び促進効果については、メカニズム解析を中心に実施する。すでに抗酸化ストレス物質の再現性確認実験を実施し、抑制効果に関しては論文にまとまり、令和元年に掲載される予定である。抗酸化ストレス物質のアミロイドーシス促進効果や、運動処方の抑制効果の再現実験も令和元年には完了し、昨年度までに実施した結果と合わせて詳細な解析を行う。具体的にはアミロイドーシスを抑制/促進効果のメカニズム解明のために、前駆蛋白質代謝や蛋白質恒常性、オートファジー、小胞体ストレスなどに関与が予想される遺伝子の解析に加えて、網羅的なRNA発現解析(RNA-seq)をすでに実施しており、そのデータ解析に基づいた新規のメカニズムの発見に努力する。老齢マウスでのアミロイドーシス伝播現象の促進についてはマウスの匹数を増加し詳細な解析を行う。③末端が除去されたアミロイド蛋白質による線維形成仮説の検証については、TGマウスの繁殖が軌道に乗ってきたために、マウスの匹数を増加して詳細な解析を行うのと同時に、ホモマウスの利用によって、前駆蛋白質の濃度増加を図る。④血液による伝播現象に関しては、血漿中に存在するアミロイド促進効果を持つ物質の特定を行う予定である。⑤新たな動物モデルの作成に関しては、完成した変異β2M-TGマウスのアミロイド沈着の解析を行う。またアミロイドーシスの解析システムとして、モノサイト/マクロファージ系細胞を用いた細胞モデルの作成と解析を実施し、ゼブラフィッシュの作成を目指す。
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