鉄ダイナミクスと多層オミクス解析による酸化ストレス発がん克服のための基盤形成

2017 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 17H04064
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 豊國 伸哉 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90252460)
• 研究分担者: 岡崎 泰昌 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (30403489) ; 赤塚 慎也 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (40437223) ; 山下 享子 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (50754975)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2020-03-31
• キーワード: 鉄 / がん予防 / オミクス / 中皮腫 / 腎癌 / アスベスト / 瀉血 / 酸化ストレス

研究実績の概要

本研究は生体における鉄ダイナミクスを多面的に理解することにより最終的にヒトがんの予防や発症遅延を目指すプロジェクトである。今年度はこれまで解析してきたアスベスト誘発中皮腫発がんに関して、瀉血にアスベスト曝露後の中皮腫予防効果があるかどうかを検討した。これまで私たちは過剰鉄が中皮腫発生の主要な病因としてきたが、それを瀉血による除鉄で遅延あるいは止めることができるかを評価するものである。６週齢のラットに青石綿を5 mg腹腔内投与し、10-60週まで毎週あるいは隔週に体重あたり6-8 mL/kgの瀉血を行い、その後、中皮腫の発生時あるいは120週で動物を安楽死させた。雄のラットでは、瀉血により腫瘍量・中皮腫の核グレードが有意に低下し、腹水量や肉腫型の割合も低下傾向にあった。毎週の瀉血モデルで（ただしヒトC型ウイルス性肝炎の治療として使用された１ヶ月400mlｘ１回瀉血相当に換算）は生存が有意に延長した。従って、アスベストにすでに曝露されたヒトへの応用が期待される。次に、Mutyh欠損マウスを使用して、鉄ニトリロ三酢酸による腎発がん実験を施行した。C57BL/6系統はがん耐性であり、wild-typeでは7.1%に腎癌が発生したが、Mutyh欠損マウスでは26.7％に腎癌を発生した。また、Mutyh欠損マウスでは初めて腎リンパ腫が発生した。アレイCGH解析では染色体４番と１２番に高頻度にヘテロ接合体欠失を認めたが、ラットの同モデルによる腎癌やヒト腎癌と比較するとゲノムの欠損・増幅の頻度は低く、ラットで高頻度に認められたp16のホモ欠損や不活性化はプロモーター領域のメチル化も含めて認められなかった。このことは、全く同じ病因による腫瘍においても種差が存在することを意味する。増殖スイッチの入りやすさや結合織の硬さの種差が問題となろう。少なくともラットモデルの方がヒト発がんに近いといえる。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

瀉血の中皮腫予防効果が予想より早くわかるなど、当初の計画以上に進展している。

今後の研究の推進方策

当初の予定以上に進行している。今後はオミクス解析やメタボローム解析に更に力を注いでいく。

備考

2018年1月16日日本経済新聞記事掲載、「血液抜いて中皮腫予防」ウェブ報道多数

研究成果

• [国際共同研究] University of Sydney(Australia)
  • 国名: オーストラリア
  • 外国機関名: University of Sydney
• [雑誌論文] Phlebotomy as a preventive measure for crocidolite-induced mesothelioma in male rats. (2018)
  • 著者名/発表者名: Ohara Y, Chew SH, Shibata T, Okazaki Y, Yamashita K, Toyokuni S.
  • 雑誌名: Cancer Sci. 巻: 109 ページ: 330-339
  • DOI: 10.1111/cas.13460.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Fenton reaction-induced renal carcinogenesis in Mutyh-deficient mice exhibits less chromosomal aberrations than the rat model. (2017)
  • 著者名/発表者名: Li GH, Akatsuka S, Chew SH, Jiang L, Nishiyama T, Sakamoto A, Takahashi T, Futakuchi M, Suzuki H, Sakumi K, Nakabeppu Y, Toyokuni S.
  • 雑誌名: Pathol Int. 2017 Nov;67(11):564-574. 巻: 67 ページ: 564-574
  • DOI: 10.1111/pin.12598.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Iron and thiol redox signaling in cancer: An exquisite balance to escape ferroptosis. (2017)
  • 著者名/発表者名: Toyokuni S, Ito F, Yamashita K, Okazaki Y, Akatsuka S.
  • 雑誌名: Free Radic Biol Med. 巻: 108 ページ: 610-616
  • DOI: 10.1016/j.freeradbiomed.2017.04.024.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Ferroptosis: A Regulated Cell Death Nexus Linking Metabolism, Redox Biology, and Disease. (2017)
  • 著者名/発表者名: Stockwell BR, Friedmann Angeli JP, Bayir H, Bush AI, Conrad M, Dixon SJ, Fulda S, Gascon S, Hatzios SK, Kagan VE, Noel K, Jiang X, Linkermann A, Murphy ME, Overholtzer M, Oyagi A, Pagnussat GC, Park J, Ran Q, Rosenfeld CS, Salnikow K, Tang D, Torti FM, Torti SV, Toyokuni S, Woerpel KA, Zhang DD.
  • 雑誌名: Cell. 巻: 171 ページ: 273-285
  • DOI: 10.1016/j.cell.2017.09.021.
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] Role of iron in carcinogenesis and tumor biology. (2018)
  • 著者名/発表者名: Toyokuni S.
  • 学会等名: The first International Conference on Innovation of Functional Foods in Asia (IFFA2018)
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Cancer as iron addiction with ferroptosis-resistance. (2018)
  • 著者名/発表者名: Toyokuni S.
  • 学会等名: Gordon Research Conference: Oxygen Radicals
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] アスベストによる鉄依存的酸化ストレス傷害は再生中皮細胞選択的に生じる (2018)
  • 著者名/発表者名: 伊藤文哉、前田勇貴、豊國伸哉
  • 学会等名: 第17回分子予防環境医学研究会
• [学会発表] ８-オキソグアニン修復酵素欠損マウスにおける鉄ニトリロ三酢酸誘発腎発がん (2018)
  • 著者名/発表者名: 赤塚慎也、李 光華、中別府雄作、豊國伸哉
  • 学会等名: 日本酸化ストレス学会東海支部第６回学術集会
• [学会発表] 特別講演：がんの起源をフェロトーシスとレドックス制御から考える (2018)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 平成29年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業 研究成果報告会・シンポジウム
  • 招待講演
• [学会発表] Session VI: Ferroptosis and cancer. Role of iron in carcinogenesis and tumor biology. (2017)
  • 著者名/発表者名: Toyokuni S.
  • 学会等名: Cold Spring Harbor Symposium: Ferroptosis: A Critical Review.
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] IRON OVERLOAD ENHANCED CELL DEATH INDUCED BY CARCINOGENIC FIBROUS MATERIALS. (2017)
  • 著者名/発表者名: Ito F, Shi L, Toyokuni S.
  • 学会等名: SEVENTH CONGRESS OF THE INTERNATIONAL BIOIRON SOCIETY Biennial World Meeting
  • 国際学会
• [学会発表] Role of ferroptosis in carcinogenesis and cancer therapy. (2017)
  • 著者名/発表者名: Toyokuni S.
  • 学会等名: 8th Joint meeting of the Society for Free Radical Research Australasia and Japan
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Phlebotomy as a preventive measure for crocidolite-induced mesothelioma in rats. (2017)
  • 著者名/発表者名: Ohara Y, Chew SH, Shibata T, Okazaki Y, Yamashita K and Toyokuni S.
  • 学会等名: 8th Joint meeting of the Society for Free Radical Research Australasia and Japan
  • 国際学会
• [学会発表] ワークショップ３ 環境発がん：環境がおよぼす細胞・組織・臓器・個体レベルでの病理学的変化 酸化ストレスと発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第106回日本病理学会総会
  • 招待講演
• [学会発表] アスベストによる細胞死は鉄過剰依存的に増強する (2017)
  • 著者名/発表者名: 伊藤 文哉、前田 勇貴、石 蕾、豊國 伸哉
  • 学会等名: 第106回日本病理学会総会
• [学会発表] Phlebotomy attenuates the growth of malignant mesothelioma on rat model (2017)
  • 著者名/発表者名: 大原 悠紀、宗宮 大輝、柴田 崇宏、豊國 伸哉
  • 学会等名: 第106回日本病理学会総会
• [学会発表] 鉄ニトリロ三酢酸誘発腎発がんにおける MUTYH 発現の意義 (2017)
  • 著者名/発表者名: 落合 晴菜、赤塚 慎也、李 光華、豊國 伸哉
  • 学会等名: 第106回日本病理学会総会
• [学会発表] 繊維状物質は鉄過剰を介した炎症細胞の細胞死を誘導する (2017)
  • 著者名/発表者名: 前田 勇貴、伊藤 文哉、豊國 伸哉
  • 学会等名: 第106回日本病理学会総会
• [学会発表] シンポジウム８：微量金属が操る健康と疾患 鉄が操る生体反応と発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第17回日本抗加齢医学会総会
  • 招待講演
• [学会発表] 悪性中皮種の発がん過程における2価鉄トランスポーターの役割と解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 舟橋諭美、岡崎泰昌、赤塚慎也、伊藤文哉、豊國伸哉
  • 学会等名: がん予防大会2017大阪 第24回日本がん予防学会総会・第40回日本がん疫学・分子疫学研究会
• [学会発表] Mutyh欠損マウスにおける鉄ニトリロ三酢酸誘発腎発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 赤塚慎也、李 光華、中別府雄作、豊國伸哉
  • 学会等名: 第70回日本酸化ストレス学会学術集会
• [学会発表] 特別講演5：発がんの根源的原因：毒性学にできること (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第44回日本毒性学会学術年会
  • 招待講演
• [学会発表] 繊維状物質は鉄過剰を介して炎症細胞の細胞死を誘導する (2017)
  • 著者名/発表者名: 前田勇貴、伊藤文哉、豊國伸哉
  • 学会等名: 第14回日本病理学会カンファレンス
• [学会発表] 瀉血療法はラットモデルにおける悪性中皮腫の発育を減弱する (2017)
  • 著者名/発表者名: 大原悠紀、豊國伸哉
  • 学会等名: 第14回日本病理学会カンファレンス
• [学会発表] Mutyh欠損マウスにおける鉄ニトリロ三酢酸誘発腎発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 赤塚慎也、李 光華、豊國伸哉
  • 学会等名: 第14回日本病理学会カンファレンス
• [学会発表] シンポジウム３ 微量金属とヒトの疾患：鉄と発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第28回日本微量元素学会
  • 招待講演
• [学会発表] Muthy欠損マウスにおける鉄ニトリロ三酢酸誘発腎発がん (2017)
  • 著者名/発表者名: 赤塚慎也、李 光華、二口 充、豊國伸哉
  • 学会等名: 第32回発癌病理研究会
• [学会発表] 鉄バイオサイエンスの発展と将来 (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第41回日本鉄バイオサイエンス学会学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] シンポジウム8：環境要因から考える発がんリスク 酸化ストレスによる発がんのメカニズム (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第76回日本癌学会学術総会
  • 招待講演
• [学会発表] Ferric nitrilotriacete induced renal carcinogenesis in MUTYH deficient mice. (2017)
  • 著者名/発表者名: 赤塚慎也、李 光華、作見邦彦、中別府雄作、二口 充、鈴木 拓、豊國伸哉
  • 学会等名: 第76回日本癌学会学術総会
• [学会発表] 瀉血療法はラットモデルにおける悪性中皮種の発育を減弱する (2017)
  • 著者名/発表者名: 大原悠紀、豊國伸哉
  • 学会等名: 第76回日本癌学会学術総会
• [学会発表] シンポジウム2：鉄過剰ストレスに起因する疾病病態 (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 第12回臨床ストレス応答学会大会
  • 招待講演
• [学会発表] ワークショップ：本気でがんを予防する 鉄と酸素からがん予防を考える (2017)
  • 著者名/発表者名: 豊國 伸哉
  • 学会等名: 生命科学系学会合同年次大会 ConBio2017
  • 招待講演
• [備考] 生体反応病理学・分子病理診断学
  • URL: https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/pathology/pathology1/