研究課題
本研究は、生体における鉄ダイナミクスを多面的に理解することにより、ヒトがんの予防・発症遅延・悪性度低下を目指すプロジェクトである。前年度までに、発がんが、Fe(II)依存性制御性壊死であるフェロトーシスに抵抗性を獲得する過程であることを明らかにした。最終年度の今年度は、酸化的DNA損傷8-オキソグアニン(8-oxoG)修復酵素の遺伝子欠損マウス(Ogg1/Mutyh/Mth1)3系統を使用し、2年をかけて実施したアスベスト誘発中皮腫発がんの取り纏めを行った。アスベストによる中皮腫発がんには鉄過剰病態が深く関与している。さらにフェロトーシス抵抗性を関する新たな因子に関して検討を行った。各々の遺伝子改変マウスにクロシドライト3 mgの腹腔内投与を行った。Wild-type C57/BL6では悪性中皮腫の発生率が32%であったのに対し、Ogg1欠損マウスでは24%、Mutyh欠損では41%、Mth1欠損では15%であり、特に雌のMTH1欠損マウスでは有意な減少を認めた。これは、Ogg1やMutyhの欠損は中皮腫発がんを促進することはなく、ヌクレオチドプールを浄化しているMth1の存在は却ってアスベストによる中皮腫発がんに有利に働くことを示唆する。また、マイナーなアスベストであるトレモライトとアンソフィライトのラット発がん実験を実施し、トレモライトは発がん性が高く、Cdkn2a/2bのホモ欠損を高率に起こすことを示した。Carbonic anhydrase 9(CA9)はがんにおいて発現が高いことが知られるが、細胞内で発生する二酸化炭素を細胞外水素イオンにすることによってpH調整に重要な役割を果たすことが知られ、低酸素で誘導される。今回、CA9阻害剤の使用あるいはノックダウンにより、ヒト中皮腫細胞において細胞内の鉄代謝のバランスが崩れ、触媒性Fe(II)が増えることによりフェロトーシスが起こることを明らかにした。従って、CA9は腫瘍においてフェロトーシス抵抗性を賦与する遺伝子であり、治療の標的分子となる。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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