研究課題
ウイルスに対する自然免疫応答の分子機構について以下のことを明らかにした。まず、RNA結合タンパク質Hu Antigen R (HuR; 別名ELAVL1)がウイルスRNAセンサーであるRIG-Iを介したI型インターフェロン産生を正に制御していることを見出した。HuRの過剰発現がI型インターフェロンプロモーターを活性化すること、またゲノム編集により樹立したHuR欠損マクロファージ細胞株では、RIG-Iの合成リガンドであるPoly IC刺激後やニューカッスル病ウイルス感染後のI型インターフェロン産生が顕著に障害されていることを見出した。詳細に解析を行ったところ、HuRではPolo-like kinase 2(PLK2)と呼ばれるリン酸化酵素の発現量が低下していた。HuRはPlk2 mRNAの3'UTRと結合し安定化させることが分かった。また、PLK2はI型インターフェロン遺伝子の転写制御因子IRF3の核内移行に必須の役割を果たしていることを見出した。これらのことからHuRがPLK2の発現安定化を通して抗ウイルス自然免疫応答に寄与していることが明らかとなった。また、抗ウイルス応答制御に関わるリン酸化酵素として我々が以前に同定したPIKfyveをマクロファージ特異的に欠損するマウスを樹立し解析を行った。その結果、PIKfyveが様々な組織特異的マクロファージの中で、肺胞マクロファージの発生に必須の役割を果たしており、ダニによる喘息モデルの解析を通して肺胞マクロファージが肺の炎症抑制に必須の役割を果たしていることを見出した。また、Slc29a4やTMEM41aを欠損するマクロファージ細胞株や、ELMOD2欠損マウスの樹立を行い、これらを用いてウイルス応答における解析も進めた。
2: おおむね順調に進展している
ウイルスに対する自然免疫応答におけるHuRの役割や、肺胞マクロファージ分化におけるPIKfyveの役割を明らかにし論文発表を行った。また、Slc29a4欠損細胞の樹立と解析を行い、核酸リガンドの中でDNAに対するI型インターフェロン産生誘導にこの分子が関与していることを示唆するデータを得た。さらに、TMEMファミリー分子の解析も進めた。TMEMファミリー分子を用いた発現スクリーニングにより、TMEM41aを候補分子として得ることができ、この分子を欠損する細胞の樹立と解析を通して、TMEM41aがウイルスRNAセンサーの一つであるRIG-Iを介する抗ウイルス応答を負に制御していることを示唆するデータを得た。このように、ウイルス核酸に対する自然免疫応答の制御因子を複数同定し、その特異的な機能についていくつか明らかにすることができた。さらに、これら分子による自然免疫応答制御機構を明らかにするための機能解析も開始した。また、ELMOD2欠損マウスから調整した組織特異的マクロファージや樹状細胞を用いてウイルス核酸に対する自然免疫応答について詳しく解析を行っている。
TMEMファミリーの網羅的解析を行う。炎症や感染等で発現が上昇するTMEMファミリーメンバーをデータベース上から既に100種類程度抽出しており、今後それらに対する発現ベクターを構築する。レポーターアッセイを通して、これらからインターフェロン遺伝子の発現を上昇あるいは抑制する候補因子の絞り込みを行う。現在、候補の一つとしてTMEM41aがRIG-Iを介するシグナルを抑制することを示すデータを得ており、今後ノックアウトマウスの作成も視野に個体レベルでの解析も行っていく。また、細胞内局在や結合分子の探索も同時に行い、制御機構を明らかにする。同様に、DNAに対する自然免疫応答の関与が考えられるSlc29a4の機能を明らかにするため、ノックアウトマウスの作成にも着手する。また、現在、CRISPR/Cas9システムを用いた欠損細胞の樹立法が本研究室では確立しており、RNA結合タンパク質を中心に100種類程度の欠損細胞株の樹立を行っているところである。これら細胞においてウイルスに対するサイトカイン産生を指標に今後スクリーニングを行い、新たな制御因子の探索も行う。また、ELMOD2欠損マウスで認められる肺線維化亢進について、組織学的解析を詳しく行うとともに、肺に浸潤している細胞群の詳細をFACSを用いて詳細に解析することで、ELMOD2により制御される炎症応答機構を明らかにしていく。
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