研究課題/領域番号 |
17H04066
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
河合 太郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50456935)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然免疫 / ウイルス感染 / サイトカイン / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
ウイルスに対する自然免疫応答の分子機構を中心に解析を行った。RNA結合タンパク質Hu Antigen R (HuR; 別名ELAVL1)を欠損したマクロファージ細胞株を用いて解析を行ったところ、ウイルスRNA認識に関与するToll-like receptor 3 (TLR3)を介するサイトカイン産生が減弱しており、転写因子IRF3の活性化も低下していた。さらに詳細に解析を行ったところ、HuR欠損細胞ではV型ATPaseの構成因子の一つATP6V0D2の発現が顕著に低下しており、細胞内pHを測定したところ酸性化が阻害されていた。TLR3はエンドソームに局在しており酸性条件下で切断修飾を受けることで活性化型となるが、HuRの欠損によりこの修飾が阻害されていることが予想された。そこで、ATP6V0D2欠損細胞を樹立し解析を行ったところ、TLR3に対する応答が低下していた。HuRはmRNA結合タンパク質であり様々なmRNAの3'UTRに結合し安定化することが知られている。そのため、HuRとATP6V0D2 mRNAの結合をRIPアッセイで解析したところ会合を認めた。また、HuRの強制発現によりATP6V0D2 mRNAが安定化することも見出した。さらに、HuR欠損細胞にATP6V0D2を発現させると、TLR3に対する応答が回復した。これらのことからTLR3を介した自然免疫応答にはHuRによる標的mRNAの安定化が関与していることが明らかとなった。一方、イノシトール脂質脱リン酸化酵素MTMR3とMTMR4がDNAに対する自然免疫応答を負に制御することを見出した。MTMR3とMTMR4両因子の欠損細胞ではDNA認識経路において中心的な役割を果たすアダプター分子の細胞内動態に変化が生じており、これによりDNAに対する応答が増加していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TLR3を介する自然免疫応答におけるHuRの役割について、HuRが安定化を制御する標的因子としてATP6V0D2を同定し解析を行った。現在、論文作成中である。また、MTMR3とMTMR4が協調的にSTINGの細胞内動態を制御することで、DNAに対する自然免疫応答を負に制御していることを見出し、論文発表を行った。さらに、細胞内RNAセンサーであるRIG-Iを介する抗ウイルス自然免疫応答を解析する中で、TMEM41aがRIG-I下流シグナル経路活性化を負に制御していることを示唆するデータを得ており、現在解析を進めている。このように、ウイルス核酸に対する自然免疫応答を制御する細胞内因子の同定に成功し、それぞれの特異的な機能についていくつか明らかにすることができた。また、新たな取り組みとして、CRISPR/Cas9によりゲノム編集技術を用いて自然免疫制御に関連すると考えれる細胞内因子のスクリーニングを行い、TLRを介する炎症応答制御に関連すると示唆される新規因子を複数同定することができた。これらのことから、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
炎症や感染等で発現が上昇するTMEMファミリーメンバーをデータベース上から既に100種類程度抽出しており、それらに対する発現ベクターを構築する。レポーターアッセイを通して、これらからインターフェロン遺伝子の発現を上昇あるいは抑制する候補因子の絞り込みを行う。現在、候補の一つとしてTMEM41aがRIG-Iを介するシグナルを抑制することを示すデータを得ており、今後ノックアウトマウスの作成も視野に個体レベルでの解析も行っていく。また、HuRによる自然免疫応答制御に関与する新たな標的因子の同定を目指し、HuR欠損細胞で発現が低下している因子を中心に解析を深める。また、CRISPR/Cas9スクリーニングで得られた新規因子については、細胞内局在の解析、結合因子のスクリーニングやノックアウトマウスの作成を通じてそれらの自然免疫応答における機能を明らかにしていく。
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