ウイルス核酸認識に関わる自然免疫受容体であるToll-like receptors (TLRs)、RIG-I-like receptors (RLRs)やcGAS(DNA センサー)は、抗ウイルス自然免疫応答惹起の起点としてサイトカイン産生や獲得免疫活性化を誘導することで生体防御に必須の役割を果たしている 一方、自己免疫疾患や炎症性疾患発症に関わることが知られている。本研究では、これら受容体を介するシグナル伝達経路の解明や、そこに位置する新規制御因子の同定を行うとともに、疾患モデルや感染モデルを適用した解析を通して、それらの生体防御や疾患における役割を明らかにすることを目指した。その結果、MTMR3およびMTMR4と呼ばれる脂質脱リン酸化酵素が協調的にcGASを介するインターフェロン産生誘導を負に制御していることを見出した。MTMR3/4両分子を欠損する細胞の解析から、これらはSTINGと呼ばれるcGAS下流のアダプター分子の細胞内挙動を制御することで過剰なシグナル経路の活性化を抑制していることが明らかとなった。また、インターフェロン遺伝子の転写調節因子であるIRF3のウイルス感染時の核内移行に核膜孔複合体のNup93が関与していることを欠損細胞の樹立を通して明らかにした。さらに、HuRと呼ばれるRNA結合タンパク質がV型ATPaseの一つATPV0D2のmRNA安定化に寄与し、これがTLR3を介するウイルスRNA認識に重要な役割を果たしていることを見出した。一方、炎症疾患との関連については、ELMOD2欠損マウスの樹立と解析からこの分子がブレオマイシン投与による肺線維症やデキストラン誘導性大腸炎の抑制にも関与している可能性を見出した。その分子機構について現在解析を行なっている。
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