研究課題
組織傷害が起こると、マクロファージは急性炎症の惹起と、回復期における炎症収束および組織修復の両方を担う。本研究では、この組織傷害におけるマクロファージの形質転換機構について研究を進めている。1. CD169マクロファージの形質転換における転写因子の役割我々は、これまでに腸管のCD169マクロファージの形質決定に重要な役割を担う転写因子としてc-Mafを同定し、さらにこのCD169マクロファージが、腸炎の炎症期から修復期にかけて、c-Mafの発現量を変化させることで形質を転換することを見いだした。本年度は、培養マクロファージおよび生体内CD169マクロファージにおけるc-Mafの発現変化と形質転換機構の解析を行った。その結果、in vitroでは酸化ストレス刺激によりマクロファージのc-Mafの発現量が低下すること、その後にLPS刺激を行うとNrf2依存的な遺伝子発現が亢進することを見いだした。さらに、腸炎モデルにおけるCD169マクロファージのc-Maf発現量を経時的に調べると、回復期にはc-Maf発現量が減少し、それに伴ってNrf2標的遺伝子の発現が増加することが分かった。これらの結果より、c-Mafの発現量の制御がCD169マクロファージの形質転換に重要な役割を担っていることが明らかとなった。2. 修復期に出現する炎症抑制性単球の同定我々は上述のように、腸管のマクロファージの形質転換機構の研究過程で、腸炎の回復期になると、骨髄においてあらたにYm1陽性単球サブセットが産生されることを見いだした。我々が樹立したYm1-Venusマウスの解析により、組織傷害の回復期に傷害組織に浸潤した同単球は、炎症抑制および組織修復に関与する遺伝子を発現すること、さらにYm1-DTRマウスを用いた解析により、同単球の欠損時には、腸炎からの回復が有意に遅延することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
我々は上記1のように、c-Mafの発現量の制御が、組織常在CD169マクロファージの形質転換に重要な役割を担っていることを明らかにした。一般に、マクロファージは環境因子により容易に自身の形質を変化させる可塑性の高い細胞だと信じられており、我々の知見もこの説を支持するものである。一方で、我々の上記2の知見は、従来の考え方とは異なり、組織傷害の回復期に、骨髄であらたな単球サブセットが産生され、これが局所に浸潤する可能性を示している。この知見は、組織傷害時に、傷害部位から骨髄に向けて何らかのシグナルが発信され、必要な免疫細胞の供給を促すという新しい概念を提示している。役割の異なる単球およびマクロファージサブセットが、骨髄で産生されるという説を支持する知見は、他の研究者からも複数報告されており、今後、マクロファージの形質転換を説明するメカニズムとして、さらに知見が積み上げられていくものと思われる。今後、本研究では、この2つの現象の解明をさらに進めることにより、マクロファージの形質転換機構の全体像の解明を目指したいと考えている。
来年度は本研究の最終年度として、マクロファージの形質転換の機構のさらなる解明に努める。特に我々が最近同定した制御性単球の産生機構と生理的、病理的意義の解明を中心に研究を進める。1. 組織傷害モデルにおける制御性単球の役割我々は、これまでに、Ym1陽性細胞を蛍光標識したマウス(Ym1-Venusマウス)を作製し、このマウスの解析から、腸炎の回復期に炎症性単球とは異なるYm1陽性の新規単球サブセットが骨髄で新たに産生されることを見いだした。この単球は傷害部位に浸潤すると炎症抑制・組織修復型マクロファージの形質を示し、傷害組織の修復に寄与することをつきとめた。本研究では、組織傷害の回復期に傷害部位に浸潤した制御性単球を採取し、その遺伝子発現をRNAseqにより解析する。この解析パターンを炎症性単球と比較することにより、免疫制御性単球特異的な遺伝子発現とそれを制御する因子の同定を試みる。2. 組織傷害時の骨髄における免疫制御性単球の分化増殖機構の解明免疫制御性単球は、組織傷害の回復期に骨髄で増産されることから、傷害組織で生じた何らかのシグナルが骨髄に作用し、免疫制御性単球の分化および増殖を促進すると想定される。そこで、本研究では、組織傷害時の骨髄における免疫制御性単球の分化増殖機構の解明を試みる。最初に、各種前駆細胞がin vitroおよびin vivoにおいて免疫制御性単球に分化しうるか否かを解析し、次に、同定された前駆細胞を各種サイトカイン等により刺激する等して、免疫制御性単球を効率よく分化誘導できる細胞と刺激の組み合わせを明らかにする。また、免疫制御性単球の分化に関与する転写因子の同定を試みる。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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