組織傷害において、単球およびマクロファージは、急性期には炎症を惹起する一方で、回復期には炎症収束および組織修復を担う。本研究では、この組織傷害におけるマクロファージの形質転換機構について研究を進めた。 我々はこれまでに、傷害組織の局所に集積する単球およびマクロファージの解析を端緒として、これまで知られていた炎症性単球とは機能の異なる、新規制御性単球サブセット(Ym1+Ly6C+単球)を同定した。この制御性単球は、健常時の末梢血中にはほとんど存在しないが、組織傷害の回復期に骨髄で増産され、傷害組織に浸潤して、炎症収束と組織修復に寄与する。我々は、さらに、このYm1+Ly6C+制御性単球が、炎症に伴うがん前転移ニッチの形成に重要な役割を担っていることを示す知見を得た。このYm1+Ly6C+制御性単球は、炎症に伴って特に肺に集積し、前転移ニッチを形成することで、がんの肺転移を促進する。炎症時にYm1+Ly6C+制御性単球を選択的に消去すると、肺転移が有意に抑制できること、ならびに、Ym1+Ly6C+制御性単球を分取し、これを健常マウスに移入するだけで、肺の転移巣形成が著明に亢進する。このYm1+Ly6C+制御性単球の発現遺伝子解析の結果、この単球が有する組織リモデリング促進作用が、がん転移を促進している可能性を示す知見を得た。興味深いことに、Ym1+Ly6C+制御性単球は、実験的にがん原発巣を外科的切除することによっても、その骨髄での産生が著明に亢進し、肺転移を促進することから、外科的侵襲に伴うがん転移促進にも重要な役割を担っていることが想定される。単球、マクロファージに関するこれらの知見より、組織修復機構とがんの進展および転移促進機構の間に、共通原理が存在していることが示された。
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