研究課題
ネクロプトーシスを誘導する遺伝子であるcFLIPsを過剰に発現するトランスジェニックマウス(CFLARs Tgマウス)を樹立したところ、胎児期から重篤な回腸炎を発症し、一部のマウスは子宮内で死亡することが判明した。組織像ではネクロプトーシスだけでなく、予想外なことに小腸上皮細胞が大量にアポトーシスに陥っている像が観察された。そこでアポトーシスとネクロプトーシスとのクロストークを解析するために、ネクロプトーシスに関与する遺伝子の欠損マウスと交配を行った。Ripk3やMlkl遺伝子欠損マウスとCFLARs Tgマウスを交配することで、完全ではないものの胎生致死の表現型がレスキューされ、回腸炎も劇的に改善した。小腸上皮細胞のネクロプトーシスだけではなく、アポトーシス細胞も消失していた。このことはネクロプトーシス細胞が何らかのメカニズムでアポトーシスを誘導していることを示している。回腸炎局所でどのような遺伝変化が起こっているかを解析するために、網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、3型自然リンパ球(ILC3s)の活性化に伴い発現の誘導されるReg3bやReg3gの遺伝子の高発現が見られた。そこでILC3sやILC3sが産生しReg3b/gの発現に関与するインターロイキン(IL)-22の回腸炎への役割を検討したところ、ILC3sを除去(ILC3sの分化に必須の転写因子Rorc遺伝子欠損マウスとの交配)あるいはIL-22を欠損させることで、CFLARs Tgマウスの回腸炎の改善が見られた。以上より、成獣の腸管においては様々なストレスに対して防御的に働くと考えられているILC3sやIL-22が、胎児期においては何らかの要因で小腸上皮細胞にネクロプトーシスが誘導された場合には、異常に活性化され重篤な回腸炎を引き起こすことが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は3年目に計画していたCFLARs Tgマウスと遺伝子改変マウスの交配も順調に進み、現在論文を投稿しておりrevision中であり、当初の実験計画よりも進展していると考えられる。今回の研究により、本来腸管の防御に働くと考えられていたILC3が主に産生するIL-22が詳細なメカニズムは不明であるものの、本来発現する時期ではない胎児期において産生されると、回腸炎の増悪に関与することが判明した。このことは獲得免疫系の細胞が十分に備わっていない胎児期の状況では、ILC3などの自然免疫系の細胞の異常活性化が生じると強い炎症が惹起されることを示している。
未熟新生児に見られる壊死性小腸炎は、腸の未熟性,血液障害,細菌感染などが原因で発症すると考えられているものの、その原因は依然として不明なままである。壊死性腸炎の組織像は、CFLARs Tgマウスの回腸炎の組織像に類似していることから、これらの疾患の発症にILC3が関与している可能性もある。今後は今回見出した現象のヒトの疾患との関連性を検討する。新生児壊死性腸炎の患者の組織標本を狩猟し、ILC3sの集積が腸炎局所に見られるかを免疫染色などを用いて検討していきたい。
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