アルテミシニンとパートナー薬剤による併用療法(ACT)は熱帯熱マラリアに対する第一選択治療法である。近年、ACTの治療効果が低下し、その原因はアルテミシ ニン耐性にあるとされてきた。しかし現実には多くの患者においてパートナー薬剤に対する耐性により治療が失敗することが指摘され、既にタイ・カンボジアに おいてはパートナー薬剤の変更を余儀なくされている。現在、汎用されるパートナー薬剤はメフロキンとピペラキンである。ピペラキン耐性についてはクロロキ ンと同じく、PfCRTが耐性遺伝子として同定され、耐性機構の解明・耐性原虫対策が進められている。しかしメフロキン耐性については未だ耐性遺伝子が同定され ておらず、有効な対策は講じられていない。一方、申請者はこれまでに(1)タイ由来メフロキン耐性株の獲得、(2)人工染色体技術に基づく新規耐性遺伝子 同定法 の開発を行ってきた。そこで本研究では上記成果を組み合わせ、メフロキン耐性遺伝子の同定と耐性機構の解明を試みる。昨年度までにタイーメーホンソン居 住 の患者より採取したメフロキン耐性原虫を使い、人工染色体を用いた遺伝子ラブリラりーを作製し、人工染色体を用いた遺伝子ライブラリーを作製した。その結 果、ゲノム全体を約8ー9カバーするライブラリーを作製できた。さらにこのライブラリーをメフロキンでスクリーニングし、新規にPfMDR7をメフロキン耐性遺伝子として同定した。PfMDR7の配列解析を行った結果、野生型と比較し、変異は存在しなかった。一方、発現量を比較したところ、耐性株で顕著な発現上昇が確認され、これがメフロキン耐性を付与する原因であることが示唆された。
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