研究課題/領域番号 |
17H04073
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
筏井 宏実 北里大学, 獣医学部, 准教授 (80327460)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マラリア原虫 / オーシスト / オーカイネート / 組換え |
研究実績の概要 |
マラリア原虫において媒介蚊体内ステージ、特にオーカイネートからオーシスト形成期は、生活環において宿主環境が変化する事にともない原虫の形態を劇的に変化させる。さらに、生存する原虫数が最も減少する時期であることから、原虫の生き残りにとって非常に重要なステージであると推察される。そのオーシスト形成時において、原虫は媒介蚊との相互作用により、オーシスト壁(殻)という特殊な構造物を形成する。 そこで本研究は、オーカイネートからオーシスト形成期への分化、特にマラリア原虫のオーシスト壁形成に着目して、壁に関する新たな生物学的特徴を明らかにする研究を進めている。 以下にその手順の概略を示す。①オーシスト壁構成蛋白質の探索、②オーシスト壁構成蛋白質の発現局在や動態および機能解析、③遺伝子組み換え技術を用いた遺伝子欠損(KO)原虫作製などを行い、それら表現型の解析、④原虫オーシスト形成期と媒介蚊中腸細胞の相互因子の解析。上記手順に則り、昨年度までに2種類のオーシスト壁構成蛋白質が候補となったことから、本年度は、その2種類のKO原虫およびTag蛋白質発現組換え原虫の作製を試み、解析を実施した。 その結果、候補遺伝子の一つがコードする蛋白質は、オーシスト内部においてスポロゾイトが形成されてから蚊の唾液腺へ移行するまでに機能する蛋白質であると推察された。もう一つの蛋白質は、オーカイネートの細胞膜表面にも存在し、オーシスト壁構成蛋白質としての機能と、中腸腔内から中腸細胞基底膜下へのオーカイネートの移動に関わる運動性機能をもっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
候補遺伝子の一つについてKO原虫作製を試みたが、赤内型においてlethalな遺伝子であることが明らかとなった。そこで、スポロゾイト期において発現しないとされるmsp-9プロモーターに置き換えたconditional KO原虫(以下cdKO)を作製し、リアルタイムPCRを用いて各ステージでのmRNAの発現解析を行った。スポロゾイト期では、cdKO原虫は野生型(WT)原虫の半分の発現であった。吸血後28~30日目に蚊の唾液腺を摘出し、蚊1匹の唾液腺あたりのスポロゾイト形成数を測定したところ、cdKO原虫のスポロゾイト数は、WT原虫の27%となり明らかに減少していた。またスポロゾイト有している蚊を未感染マウスに吸血させたところ、cdKO原虫のスポロゾイトはマウスに感染しなかった。以上、本遺伝子がコードする蛋白質は、オーシスト内部においてスポロゾイトが形成されてから蚊の唾液腺へ移行するまでに機能する蛋白質であると推察された。 もう一つの候補遺伝子については、KO原虫とWT原虫のオーカイネートを培養し、その運動性について比較検討を行ったところ、明らかに移動速度が低下した。次に、その候補蛋白質に対する抗体を作製し、オーカイネートと反応させたところ、抗体によってオーカイネートの運動性が明らかに抑制された。以上、本蛋白質はオーカイネートの細胞膜表面にも存在し、オーシスト壁構成蛋白質としての機能と、蚊の中腸腔内から中腸細胞基底膜下へのオーカイネートの移動に関わる運動性機能をもっていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
さらに本蛋白質に関して詳細な検討を行うため、作製したcdKO原虫、蛋白質過剰発現原虫およびRFP-Tag蛋白質発現原虫を用いて各種ステージにおける表現型および複合体形成蛋白質の解析などを順次明らかにして行く。
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