研究実績の概要 |
まず、これまで解析した1,134株について、病原因子の分布をネットワーク解析により詳細に解析した。その結果、3型分泌装置(LEE)とそのエフェクター、プラスミド上の病原因子などを含む病原因子コミュニティーと、志賀毒素や一部のプラスミド上の病原因子、ihsA接着因子などを含む病原因子コミュニティーの2つが主に検出された。また、この2つのコミュニティーはいくつかの病原因子でリンクされていた。以上の結果から、これらの病原因子は共存して、また機能的に強調して働いていること示唆される。さらに、これらの病原因子がウシ常在大腸菌に偏って分布することから、その病原因子の協調的な働きがウシ腸内での大腸菌の生存に役になっていることが考えられる。 次に、これまでにウシ常在大腸菌とヒト常在大腸菌は2つの異なる系統群に分かれることを明らかにしたが、各系統に特徴的な遺伝子の抽出を行った。Pangenome解析から、1697遺伝子がコア遺伝子、28885遺伝子がアクセサリー遺伝子として同定された。そのアクセサリー遺伝子について、Pan-GWAS解析を行ったところ、2879遺伝子が統計的優位に、ウシ系統もしくはヒト系統に偏って分布する遺伝子として同定された。ウシ系統に特異的な遺伝子としては、O-antigen capsule (group 4 capsule) 合成遺伝子やphenylacetate、xylose、melibioseの利用に必要な遺伝子群などが同定された。一方、ヒト系統に特異的な遺伝子としては、グループ2 ・3 capsules合成遺伝子や複数の鉄獲得系遺伝子群などが同定された。これらの遺伝子は各宿主への適応に必要な遺伝子群であると考えられる。
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