研究課題
慢性活動性Epstein-Barr virus(EBV)感染症は、わが国をはじめとする東アジアに多いT/NK細胞性リンパ増殖性疾患である。本症は予後不良で治療法も確立されていない難治性疾患である上に、発症病理についても未だ不明な点が多い。本研究では、慢性活動性EBV感染症患者の検体・細胞株を用い、宿主遺伝子異常、感染細胞に生じている遺伝子変異、ウイルス遺伝子変異の同定を目指し、次世代シーケンサーにより大規模な統合的遺伝子解析を行った。以下の手順で、慢性活動性EBV感染症患者80例に対してHiseq2500を用い遺伝子解析を行った。1) 生殖細胞に受け継がれた遺伝子異常と、感染細胞に生じた宿主ドライバー遺伝子を同定するために、患者末梢血中のEBV感染細胞・非感染細胞の全エキソン領域の遺伝子変異を探索。2) 本疾患に特異的なEBV遺伝子変異を見出すために、患者由来のEBV全ゲノム遺伝子配列を決定。3) 疾患に特有な宿主-EBV遺伝子のパスウェイ/ネットワークを発見するために、RNAシーケンシングにより宿主およびEBV遺伝子発現を調査。統合的遺伝子解析により、以下の結果を得た。1) 患者における頻度は低いものの、生殖細胞に保持されている遺伝子欠損/多型を少なくとも2つ見出した。2) 感染細胞に生じた体細胞変異を認め、一部患者で経時的解析によりクローン進化が明らかとなった。急性増悪期・腫瘍転化後には、節外性NK/Tリンパ腫・鼻型で明らかとなっているDDX3Xなどのドライバー遺伝子のホットスポット変異が検出され、他のリンパ系腫瘍と共通するドライバー変異の獲得と、腫瘍化の機構を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究対象である慢性活動性EBV感染症は、わが国をはじめとする東アジアで頻度が高い。欧米での研究は進んでおらず、日本人である我々が率先して研究を進めるべき疾患である。近年、宿主遺伝子を対象とした網羅的遺伝子解析が急速に行われているが、ウイルス遺伝子を含めた統合的解析はほとんどなされていなかった。希少疾患である本症に対して、極めて多数の検体を用い、統合的遺伝子解析を行ったことが本研究の特徴の一つである。初年度、慢性活動性EBV感染症患者の検体80例を用い、次世代シーケンサーによる統合的遺伝子解析を行い得たため、研究は順調に進捗していると考えている。
今後は、候補遺伝子について、変異導入した細胞株を用いたin vitro機能解析、および免疫不全マウスを用いたin vivo機能解析により、宿主・ウイルス遺伝子の本疾患発症における役割とその有機的な相互関係を明らかにする予定である。具体的には以下を行う:1) EBV陰性および陽性のT/NK細胞株に、CRISPR/Casシステムを用いて、同定した疾患関連遺伝子へ変異・多型を導入する。2)細胞増殖、アポトーシス誘導、cell cycleなどの細胞の形質変化を調べる。3)マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析またはRNAシーケンシングにより、該当遺伝子に関わるシグナル伝達経路を詳細に解析する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Leuk Lymphoma
巻: 58 ページ: 2683-2694
10.1080/10428194.2017.1304762.
Front Immunol
巻: 8 ページ: 1867
10.3389/fimmu.2017.01867