研究課題
インフルエンザウイルスは8分節のマイナス鎖一本鎖RNA(vRNA)をゲノムとして持つ。8種類のvRNAは各々、ウイルス核タンパク質NPおよびRNA依存性RNAポリメラーゼとともに二重螺旋構造を有するribonucleoprotein複合体(RNP複合体)を形成する。RNP複合体は、vRNAの転写・複製を担う。しかし、RNP複合体からmRNAおよびcRNAが合成されるメカニズムについては明らかにされていないことが多く、例えば、8種類のRNA分節(8種類のRNP複合体)でmRNA合成あるいはcRNA合成がどのように制御されているのか、全くわかっていない。本研究では、ウイルス粒子(A/WSN/33株)から精製したRNP複合体を用いたin vitroポリメラーゼ反応後のcRNA量およびmRNA量、ウイルス感染細胞内において8種類の各vRNAから合成されるcRNA量およびmRNA量を定量RT-PCR法にて定量することで、分節特異的非翻訳領域の転写および複製の制御について解析する。これまでに、tagを付与したプライマーを用いて、インフルエンザウイルス(A/WSN/33株)の8分節のvRNA, cRNA, mRNAを絶対定量するためのqRT-PCR法をほぼ確立した。現在は、2種類のRNA分節(NP分節およびNA分節のvRNA, cRNA, mRNA)に着目して定量RT-PCR法を実施している。宿主因子や他のウイルス因子が存在しない条件であるin vitro ポリメラーゼ反応と経時的にウイルス感染細胞から抽出したRNAを解析したところ、二種類のRNA分節のcRNA合成量およびcRNA合成量について相関があることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、tagを付与したプライマーを用いて、インフルエンザウイルス(A/WSN/33株)の8分節のvRNA, cRNA, mRNAを絶対定量するためのqRT-PCR法をほぼ確立した。現在は、2種類のRNA分節(NP分節およびNA分節のvRNA, cRNA, mRNA)に着目して定量RT-PCR法を実施している。ウイルス粒子からRNPを精製し精製RNPを用いてin vitro ポリメラーゼ反応を行い、cRNAおよびmRNA量を定量した時と、培養細胞にウイルスを感染させ、経時的にウイルス感染細胞からRNAを抽出した時のcRNA量およびmRNAを解析したところ、これら二種類のRNA分節のcRNA合成量およびcRNA合成量について相関があることが確認された。in vitro ポリメラーゼ反応系は宿主因子や他のウイルス因子が存在しない条件であり、感染細胞内における転写・複製とは条件が異なることから、これらの結果はウイルスゲノムの分節特異的非翻訳領域配列の違いそのものが転写および複製において何らかの異なる役割があることを示唆している。
今後はNP分節およびNA分節に対して、プラスミドトランスフェクションによるミニゲノムアッセイ系を用いた実験を行う。NP、PB2、PB1,PAタンパク質発現プラスミドに加え、コード領域をレポーター遺伝子に置き換えたNP分節のミニゲノム発現プラスミドあるいはコード領域をレポーター遺伝子に置き換えたNA分節のミニゲノム発現プラスミドを培養細胞に導入し、その際にミニゲノムから合成されるcRNA量およびmRNA量を解析する。この時に、in vitroポリメラーゼ反応で合成されるcRNAおよびmRNA合成量や、ウイルス感染細胞で認められたcRNAおよびmRNA合成量と相関があれば、分節特異的非翻訳領域の配列そのものがcRNA合成およびmRNA合成、すなわち転写および複製の制御に関わると考えられる。これまではNP分節およぼNA分節に対して実験を進めてきたが、今年度はさらに残りの6分節(mRNA合成量やcRNA合成量に特徴のある分節)に対しても実験を実施する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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