ウイルス感染に対する自然免疫応答は、細胞内のセンサー分子によりウイルス核酸を認識することで開始される。本研究では、DNA損傷応答機構に関連する宿主因子により核内複製する動物RNAウイルス(ボルナ病ウイルスとインフルエンザウイルス)が認識される仕組みとその制御の分子メカニズムを解明することを目的に実施された。本研究では、核内でヘルペスウイルスなどのDNAウイルスを認識して免疫応答を誘導することが知られているDNAセンサー分子であるIFI16が、核内でのボルナ病ウイルスの複製を認識して宿主応答を引き起こすことを見出した。また、DNA損傷応答に関わるDNA-PKがボルナ病ウイルスの感染により活性化されることも報告した。さらに、ボルナ病ウイルスの複製酵素であるRNAポリメラーゼ(L)タンパク質と結合する宿主のメチルトランスフェラーゼ補因子を同定し、この宿主因子がクロマチン結合因子であるHMGB1と同様にボルナ病ウイルスRNPの染色体結合と複製に影響を与えていることを明らかにした。研究最終年度である2019年度には、核内に多く局在するRNA編集酵素であるADAR2がボルナ病ウイルスのゲノムRNAを認識し、ゲノムにA-to-G編集を導入することで核内での宿主認識機構から逃れ持続感染を成立させていることを報告した。以上の研究により、核内におけるRNAウイルスの認識メカニズムの一端が明らかになるとともに、それらに関わる分子と宿主のDNA損傷応答機構との関連性が示された。
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