研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)はヒト肝細胞に特異的に感染するが、宿主細胞への感染機序及び選択性を理解するためには、ウイルスの細胞内への侵入過程を制御するメカニズムを明らかにする必要がある。HBVの細胞側受容体としてsodium taurocholate cotransporting polypeptide (NTCP)が知られているが、NTCPがどのようにHBV侵入を媒介するか、またNTCPがどのような制御を受けてHBV感染の程度を決定しているかに関してはほとんど明らかではない。本研究ではHBV感染を制御する宿主因子をスクリーニングにより同定し、その分子機構を解析した。本研究には主にこれまでに我々が樹立したHBV感染培養系を用いた。スクリーニングによって同定された複数の候補因子に着目し、これらが感染過程のどこを阻害するか、またNTCPとの相互作用の有無を決定した。またNTCPとの相互作用が得られたものに関しては、NTCPが関わるどのイベントを制御するかを解析することで、HBV感染における役割を調べた。さらに侵入過程にあるHBVを可視化し、これら因子との関連性を調べた。以上の検討により本研究では、NTCP依存的、非依存的にHBV感染を制御する複数の宿主因子候補を同定した。今後さらに分子機構を詳細に解析することにより、HBV感染メカニズムだけでなく、HBV侵入動態、種特異的感染を決定する機構、また新たな抗HBV薬開発に資する知見が得られると期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では主に以下の点に関して検討した。(1)HBV侵入の各ステップを制御する宿主因子の同定および作用機序の解明:宿主因子A:siRNAで内在性発現をノックダウンすることにより細胞表面のNTCP発現が低下することが認めら、これに伴って蛍光HBVエンベロープペプチドの細胞表面への吸着が低下することが認められた。またこれによりHBVおよびHDV感染が低下した。:宿主因子B:siRNAによる内在性発現低下により蛍光HBVエンベロープペプチドの細胞表面への吸着およびNTCP依存性胆汁酸取り込みには影響を与えなかった。またHBV感染が低下した一方で、HDV感染には大きな影響を与えなかった。以上により宿主因子AはNTCP制御を介してHBV感染を規定していること、宿主因子Bは侵入後期過程に関与していることが示唆された。(2)HBVの細胞内内在化の開始要因となる宿主環境・分子機序の解明:蛍光HBVエンベロープペプチドは細胞表面に吸着後、4-8時間を経て内在化するが、この内在化を10-30分に速める外的刺激を同定した。またこの時、タイムラプス顕微鏡観察により、蛍光HBVエンベロープペプチドとNTCPが共に内在化していくことが認められた。(3)HBVが宿主因子を乗っ取り、侵入を開始する機構の解明:HBV粒子により(2)に関わるシグナル経路が活性化されるという予備的結果を得た。そこでHBV粒子のどの因子が内在化活性化に関わるのかを現在検討している。
本研究によりHBV感染を制御する複数の宿主因子候補が得られた。今後これらの因子がどのようにNTCP受容体機能あるいはHBV感染を制御しているのかを解析する。またこれらは新たな創薬標的となる可能性があるので、これら因子のリコンビナントタンパク質精製およびこれを用いた結合化合物のスクリーニングを構築し、HBV感染阻害薬同定を目指す。
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