研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)の宿主細胞への感染を理解するためには、いまだほとんどその機序が明らかでない感染初期のウイルス細胞内侵入過程を解析する必要がある。これまでHBVの宿主細胞への感染には細胞側受容体としてNTCPが必要であることが明らかになっている一方で、NTCPがどのようにHBV侵入を媒介するか、これを介した細胞内での動態に関してはほとんど不明である。またHBVの種特異的な感染を決定する機構も完全には明らかになっていない。本研究ではNTCPと相互作用あるいは制御する因子を同定することによりHBV侵入機構を明らかにすることを目的とした。特にこれまでに我々が樹立したHBV感染培養系を用いてHBV感染表現系を指標に、これに関わる宿主因子を同定することを主な目的に設定した。本年度は同定した候補因子の中から、NTCPを制御する因子として上皮成長因子受容体(EGFR)に着目し、その機能およびHBV感染への意義を解析し、報告した(Iwamoto M et al. Proc Natl Acad Sci USA 116(17): 8487-8492, 2019)。EGFRとNTCPの相互作用はウイルス受容体機能に重要であり、特にウイルスの細胞への吸着後の内在化過程に関与すると考えられた。本研究成果は、HBV分子機構の解明のみならず、HBV侵入動態、種特異的感染、創薬にも有用な知見を提供するものである。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで宿主細胞へのHBV侵入には受容体NTCPが必須であることが知られていたが、NTCPはどのようにHBV侵入を媒介するかは明らかでなかった。本研究ではEGFRがNTCPと相互作用し、NTCPの受容体機能に必要な受容体共役因子であることを明らかにした。HBV preS1はNTCPだけでなくEGFRと共に内在化することが示された。EGFRと相互作用できないNTCP点変異体はHBV侵入、感染を媒介することができなかった。またEGFR-NTCP相互作用を解離させるペプチドを処理することによりNTCP-HBV preS1複合体の内在化は抑制され、HBV感染は阻害された。EGFR阻害剤ゲフィチニブの処理によってもEGFR-NTCP-HBV preS1の内在化が抑制され、HBV感染が大きく低下した。以上の結果はNTCPのウイルス受容体機能にはEGFRとの機能的相互作用が重要であることを示している。これは、これまで明らかでなかったNTCPのウイルス受容体媒介メカニズムを理解する上で重要な情報である。
本研究によりEGFRのHBV感染における役割が明らかになった。今後EGFRがどのようにNTCP受容体機能を制御しているのかを明らかにしていく。またEGFRとNTCPの機能的相互作用が新たな抗HBV薬の標的となると考えられるので、EGFR-NTCP相互作用をin vitroで評価するスクリーニング系を構築することでHBV感染阻害薬を同定できると考えられる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 6件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (47件) (うち国際学会 22件、 招待講演 5件) 産業財産権 (1件)
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